誤嚥・窒息による死亡事故の裁判例が増えています。
施設側の責任を認める判決が多く、今回の事件もそのひとつです。
まずは記事から見ていきましょう。
この記事の目次
入所男性がパンを詰まらせ死亡、特養ホーム側に2490万円賠償命令…「危険性を認識できた」
入所男性がパンを詰まらせ死亡、特養ホーム側に2490万円賠償命令…「危険性を認識できた」
名古屋市西区の特別養護老人ホームで、入所中の男性(当時88歳)がパンを喉に詰まらせて死亡したのは職員らが見守りを怠ったのが原因だとして、遺族が施設側に計約2960万円の損害賠償を求めた訴訟の判決が7日、名古屋地裁であった。藤根康平裁判官は施設側の安全配慮義務違反を認定し、計約2490万円の支払いを命じた。
判決によると、男性は要介護認定を受けて施設に入所していた2021年11月、朝食のロールパンを喉に詰まらせて窒息死した。男性は約1か月前にもロールパンを喉に詰まらせていた。
訴訟で、施設側は「男性は自分で食べることができたので、常に見守る義務はなかった」と主張。これに対し、藤根裁判官は「これまでと同じ態様で食事を提供すれば、より重篤な結果が生じる危険性を認識できた」と、施設側の賠償責任を認めた。
施設を運営する社会福祉法人「長生福寿会」(名古屋市西区)は「判決の内容を確認して対応を検討したい」としている。
Yahoo!ニュースより
簡単に要約すると、
名古屋市の特別養護老人ホームで、入所中の高齢男性がパンを喉に詰まらせて死亡。遺族は職員が見守りを怠ったと指摘し、約2960万円の賠償を求めて訴訟。名古屋地裁が施設側の安全配慮義務違反を認定し、約2490万円の支払いを命じた、というものです。
この男性に関してはパーキンソン病だったという情報もあります。パーキンソン病の症状の一つとして嚥下機能の低下があるため、少なからず、嚥下の問題を抱えていたのではないかと考えられます。
一か月前にも同様にのどに詰まらせていたことからも、リスクはあったと感じられます。それゆえの判決だったと記事に記載されています。
それでも厳しい判決だと感じる理由
ただ、それでも誤嚥による窒息死の過失責任としては非常に重いように感じます。
なぜなら、特別養護老人ホームに入所している人には誰しも誤嚥のリスクがあるからです。誤嚥リスクがあるのはこの男性に限られた話ではありません。誰でも、加齢に伴い嚥下機能が低下すると、誤嚥する可能性は高くなります。せき込んで詰まった食物を外に排出する力も低下します。最悪の場合死に至るリスクは入所者は誰でも持っているといって過言ではありません。
そして、特別養護老人ホームの職員配置には限界があります。朝食の時間は、夜勤者が対応しており、人手が少なく、事故のリスクも高まります。
全方位誤嚥リスクがあるという状況でサービスを運営している現状を考えれば、事故の過失責任として2490万円という金額はいささか重すぎるような気がします。人の命を金額で測ることはできませんが、施設側が得ている介護報酬と比べれば、やはり重すぎると感じます。
ただ、ひとつ、みなさんにも周知しておきたい部分があります。
ロールパンについです。
ロールパン誤嚥の裁判事例
実は今回の事故で登場するロールパン。これまでも誤嚥事故を数多く生んでいるのです。
いくつか紹介します。
鹿児島県内の介護老人保健施設で4年前、2泊3日のショートステイで入所していた70代後半の男性が、朝食でロールパンなどを食べた後にむせた。約1時間後、男性は心肺停止状態に。のどからパンのかたまりが取り除かれたが、低酸素脳症に陥った。意識が戻らず、重い障害が残った。
男性の家族らは施設側に損害賠償を求めて提訴。昨年3月、鹿児島地裁は「施設側は誤嚥のリスクを認識しており、パンを提供するにも小さくちぎって出す必要があった」として原告側の請求をほぼ認め、施設側に計約4千万円の支払いを命じた。施設側は福岡高裁宮崎支部に控訴したが、和解した。
朝日新聞デジタル ロールパン、のど詰まらせた男性 水を吸うと一切れでも
神戸地裁平成24年3月30日神戸地裁判決では、利用者がロールパンを誤嚥して窒息死した事案につき、医師の診断には嚥下障害を示すものはなかったことや、家族からの要望の中にも食物に気を付けてほしい旨の記載はなかったことから、誤嚥につき予見可能性はなかったと認定して、介護事業者側の責任を否定したのです。
しかし、この神戸地裁の判決に対する控訴審である大阪高裁(平成25年5月22日判決)は、原審の認定を覆しました。というのも、この事案では、誤嚥事故が入居後3日程度であり、入居後に予定されていた初回の医師の診察・指示がいまだ実施されていない状態で発生した、という特殊事情がありました。大阪高裁は、例え医師による明確な指示がなくとも、日常的に高齢者と接している介護スタッフの知識・経験をもってすれば、誤嚥事故が発生することは危惧してしかるべきであると判示したのです。そのため、大阪高裁は、介護事業者としては、少なくとも医師による入居後初回の診察・指示があるまでは、頻繁に見回りをするとか、ナースコールを配置するなどすべきであったと認定し、介護事業者の過失を認めました。
介護弁護士.com
これまでもロールパンによる窒息事件は裁判として扱われ、結局裁判では原告側が勝利。つまり、施設側の重大な過失を認める判決を行っています。
となると、まず考えなければいけないのは、
ロールパンはヤバい
ということです。
丸みを帯びた美しいフォルム。
香ばしいバターの香り。
手でつかめる手軽さ。
ベタつくことのない表面。
もちもちした弾力とふんわりとした内面。
でもこれ、全部ロールパンの仕組んだワナだと思ってください。
奴はマジで危険です。
ロールパンの誤嚥リスク
ロールパンは誤嚥リスクの高い食べ物です。
ロールパンは一般的にパサパサして粘り気が少ないため、高齢者の誤嚥(食物や液体が誤って気道に入ること)や窒息のリスクを増加させる可能性があります。高齢者は嚥下(飲み込むこと)の機能が低下していることが多く、口や喉の筋力が弱くなっているため、食べ物を適切に嚥下することが難しくなることがあります。
ロールパンのようなパサパサした食品は、十分に噛まずに飲み込もうとすると、食物が喉や気道に入りやすくなる可能性があります。また、高齢者の口や唾液の分泌量も減少しているため、食べ物を適切に湿らせることが難しくなり、飲み込みにくさが増すことがあります。
誤嚥や窒息は重篤なリスクを伴うことがあり、気道に食物が入ることで肺炎を引き起こす可能性があるため、注意が必要です。特に、ロールパンは手でつかんで食べやすいことから、大きなサイズのまま食べようとして誤嚥につながるリスクもあります。
手軽さから施設の朝食の定番になるロールパンですが、それだけの危険が潜んでいるのです。
ロールパンリスクを回避するためには
これだけ重大な事故が多く出ているのに、やはり施設ではロールパンが提供されます。
誤嚥による重大事故を防ぐために、ロールパンは提供しない。もしくはロールパンを小さくカットする、または牛乳に浸したパン粥にするなど、何らかの対策が必要です。
やっぱりそれには人手がかかります。
パン粥にしたらあの弾力のあるもちもち感は失われますから美味しくないというのもわかります。
ただ、おそらく法曹界でもロールパンリスクはもう十分に認知されているので、ロールパンで窒息事故が起きたら、かなりの確率で施設側の過失が認められてしまうでしょう。
これだけのリスクがある以上、「朝食はロールパンをつかんで食べる」という日常を一度見直すことが必要なのではないでしょうか。
※過去の記事ではこんなパンも紹介していました。ぜひ参考に
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