この記事の目次
クラスター発生にどう立ち向かうか。
新型コロナウイルス感染症の被害拡大は続いています。
すでに介護・福祉施設でのクラスター発生件数は100件を超えたと報告されています。
福祉施設のクラスター、全国で100件に 厚労省 高齢者施設は66件
厚生労働省は5日、全国の福祉施設で発生した新型コロナウイルスのクラスターが8月3日時点で100件にのぼったと明らかにした。
自治体の報告などを基に独自に集計した結果として公表した。 それによると、全国のクラスター発生数は8月3日時点で670件。内訳は飲食店が153件、医療機関が140件、福祉施設が100件、その他の施設が277件となっている。 福祉施設の内訳は、高齢者福祉施設が66件、障害者福祉施設が11件、児童福祉施設が23件だった。 日本は欧米の先進国と比べて、高齢者福祉施設の死亡者数がかなり少ない。死亡者全体に占める割合も低く、サービスを担う職員の取り組みの成果だと評価されている。ただ現場は綱渡りの厳しい状況が続いており、政府には支援策の一層の強化が求められている。
介護のニュースJOINTより
この時点で670件のクラスターのうち、100件が福祉施設ということです。
その後もクラスター報道は続いています。
続出する「クラスター」報道。
熊本県で7人目の死者 クラスター発生の介護施設入所者
熊本県は18日、新型コロナウイルスに感染し、入院中だった同県山鹿市の80代女性が死亡したと発表した。女性はクラスター(感染者集団)が発生した同市の介護老人保健施設「太陽」の入所者で、7月27日に感染が確認されていた。同県内の死者は7人となった。
西日本新聞より
埼玉で74人感染 越谷の介護老人保健施設でクラスター
越谷市では2日、介護老人保健施設「葵(あおい)の園・越谷レイクタウン」(越谷市東町5丁目)を利用する50~80代の男女6人の感染が明らかになった。同園では7月24日~8月1日、職員4人、利用者3人の陽性者が出ており、市はクラスター(感染者集団)と認定した。いまのところ、重症者はいないという。
yahoo!ニュースより
愛知県一宮市の高齢者施設でクラスター 計15人が感染
愛知県一宮市は14日、市内の高齢者介護保険施設で10日以降、計15人(利用者10人、職員5人)の感染が確認されたと発表した。10日に3人の感染がわかり、その後、利用者や職員など濃厚接触者の検査を進めていた。同市によると、県内で15例目のクラスター(感染者集団)という。
市は「不特定多数が集う場所ではなく、利用者が特定されている」として、事業者や施設の種類は明らかにしていない。市介護保険課は「市内の類似施設への注意喚起をしたい」としている。
愛知県内では、豊川市の高齢者施設の関連でも13人の感染が確認され、県は13日にクラスターが発生したと明らかにしている。
これを受け、豊川市は14日、高齢者が利用する市内の施設を16~31日に休館すると発表した。
朝日新聞デジタルより
明らかに風向きが変わったように思います。
確かに、感染者数で多数を占めるのは20代~30代などの若者世代ですが、高齢者施設や医療機関でのクラスターが発生するようになりました。
明らかに60代以降の感染者数が増えています。
基礎疾患のある高齢者が新型コロナウイルスに感染することで、重症化し、死亡リスクも高くなります。
重症者を増やさないためには高齢者への感染を防ぐことが重要です。
介護施設でクラスターが発生することを避けなければいけません。
自粛警察・コロナ警察との闘い
コロナウイルスのクラスターと報道されることは、施設側にとっても非常に大きなダメージとなります。
風評被害や、自粛警察・コロナ警察と言われる住民による誹謗中傷など、精神的なダメージを受ける施設も少なくありません。
感染者を出すと、やれ職員利用者全員PCR検査受けたのか、とか、営業するなとか言われたり、露骨な嫌がらせを受けたりとか。
施設も被害者。
施設もコロナウイルスの被害者です。
ただでさえ限られた介護報酬、限られた人的資源の中で、多くの利用者のケアを行いながら、感染拡大を食い止めることは至難の業です。
感染予防のために通常行わなければいけないケア以上に、感染対策として除菌・消毒・防護衣の着脱・ゾーニング・頻回な検温など、ひとつひとつのケアにかかる作業は膨大に膨れ上がります。
それでいて、誹謗中傷にさらされ、そんな対応に限られたリソースを割かなければいけないというのがどれだけの苦痛か、考えようとする想像力はないのでしょうか。本当に残念です。
日本の介護施設は頑張っている
欧米と日本、介護施設での感染者・死者数の比較
実は、日本国内で新型コロナウイルスの死者数が少ない理由の一つとして、介護施設が施設内の感染拡大を食い止めていることが挙げられています。
実は、欧米での新型コロナウイルス感染による死者数の大半が、介護施設における感染が原因となっているのです。
各国の研究機関も新型コロナウイルス関連の統計調査を行っていますが、注目したいのは「国全体の死者数」に対する「高齢者施設の死者数」の割合です。
英国ロンドン・スクール・オブ・エコノミクスの研究グループが4月12日に発表した調査結果(※)によれば、スペインが57%、イタリアは53%と高齢者施設の死者が国全体の死者の半数を超えており、フランス、ベルギーも40%台と半数に迫る死亡率になっています。
この調査の対象に日本は含まれていないので、単純な比較はできませんが、日本の場合、国全体の死者数も他国よりも低く抑えられているだけでなく、高齢者施設での死亡率は約14%だったと、共同通信が5月13日に報じています(5月8日時点、新型コロナウイルスに感染した人の国内の死者は全体で557人。そのうち、介護施設入所者の死者数は79人で、全体の約14%=7人に1人)。
高齢者施設での死者数が多いのはヨーロッパだけではありません。
アメリカも死者の4割以上が介護施設に集中していると報道されています。
米のコロナ死者 4割以上が介護施設に集中
新型コロナウイルスによるアメリカ国内の死者の実に4割以上が、介護施設に集中していると、アメリカの有力紙が報じました。
ニューヨークタイムズは13日、新型コロナウイルスの全米の死者のうち、6万8000人以上が介護施設の入居者と従業員だったと報じました。全米の死者数は17万人に迫っていますが、介護施設だけでその4割以上を占めているとしています。
最も深刻だったのは北東部のニューハンプシャー州で、州全体の死者数のうち介護施設に関連する死者が8割以上を占めるなど、5割以上となった州が20州にのぼるということです。
また、介護施設での感染者の致死率は16%と、全米の3%を大きく上回っているとしていて、改めて介護施設の被害の大きさが浮き彫りとなっています。
gooニュースより
欧米で起きた重傷者数、死者数の爆発的な数字は介護施設で起きていました。
その現実を踏まえて考えると、日本の介護施設はよく踏みとどまっていると評価すべきではないでしょうか。
介護施設が踏みとどまっているからこそ、医療施設の病床数や人員が確保でき、重症者のケアを行うことができているのです。
介護職員の自己犠牲のもとに成り立つ感染予防で乗り切ることは難しい。
ここまで介護施設での感染拡大防止に成功してきた最大の要因は、介護職員の自己犠牲によるものです。
プライベートを切り捨て、感染者を出さないようにと、自分の時間や生活を犠牲にしてきた介護職員がたくさんいます。
自分が感染し、それを職場に持ち込んでしまう恐怖心から、行動を抑制してきました。
日本の介護職の勤勉性が介護現場での感染拡大を防いでいるのです。
介護職員の自己犠牲により、感染拡大は食い止められてきたといっても過言ではありません。
介護職員等に対する慰労金の受付がスタートしていますが、コロナ感染者・濃厚接触者に対応していない場合は5万円という金額については、いろいろな意見があります。
感染者に対応していないのに「もらい過ぎ」という声もありますが、決してそんなことはないと思います。
ただし、いつまでも介護職員の自己犠牲に頼るというのはあまりに無策です。ますます介護という仕事から優秀な人材が離れていく危険性があります。
日本の介護施設の頑張りを評価した上で、介護施設を効果的にバックアップする政策を検討すべきです。
周辺業務を支える人材を投入してマンパワーを底上げすることや、介護職員の業務の中で負担の大きなペーパーワークを削減するなど、介護職員が介護業務に専念できるような環境を作り、介護現場を支えることが必要になのではないでしょうか。
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