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新型コロナウイルス感染拡大に、自粛か継続か。
新型コロナウイルスの猛威は介護保険事業所も巻き込んでいます。
前回、デイサービスの自粛・継続の判断についての記事を紹介しました。
感染拡大を防止するために、密な空間を生み出すデイサービスとしての活動を中断し、訪問や電話対応に切り替える事業所も増えていました。
国もそれを支援する形で介護報酬の算定を例外的に認めていました。
主にリハビリをメインにした短時間のデイサービスは、通所の形態を行わずに訪問対応などに切り替えるところが多いですね。
時間はもともと3~4時間で、午前午後で利用者を入れ替えて機能訓練などを提供していたサービス事業所にとっては、従業員や利用者で感染が発生するリスクなどを考えれば、訪問への移行は比較的難しい判断ではなかったかもしれません。
ただ、食事の提供や入浴の提供といった生活部分を支えているデイサービスはサービス中断期間の利用者のケアをどうするべきか、難しい判断を迫られます。
全国で広がるデイサービス休業
そして、緊急事態宣言は7都府県から全国に変更され、介護サービス事業所にもさらに大きな動きが出ています。
なんと、全国で883の介護サービス事業所が休業しているということです。
新型コロナウイルスの感染拡大の影響で、デイサービスなどの「通所型」の施設を中心に全国で少なくとも883の介護サービス事業所が休業していることが自治体への取材でわかりました。専門家は「かつてない休業数で、サービスを利用している高齢者やその家族にとって非常に深刻な問題だ」と指摘しています。 介護施設のうち、デイサービスなどの「通所型」とショートステイなど「短期入所」の施設は、法律に基づく緊急事態宣言を受けて知事が必要だと判断した場合使用の制限や休業の要請ができるとされています。
ほとんどの自治体が現時点では休業要請などを行わずサービスを継続する方針ですが、NHKが全国の自治体に取材したところ、20日現在で少なくとも883の介護サービス事業所が休業していることがわかりました。
このうち、98%にあたる863事業所が自主的な判断で休業していて、自治体からの要請で休業しているのは大阪府と福岡県の合わせて6施設だけでした。
先に法律に基づく緊急事態宣言が出されていた都府県では、宣言が出される前と後で休業している介護サービス事業所が2倍余りに増え、この1週間でさらに1.7倍に増えました。
NHK NEWS WEBより
急激に休業する事業所が増えたのは、全国に緊急事態宣言が出されたことだけではなく、休業する決断の遅れた7都府県の事業所も多かったのでしょう。
厳密にいえば休業ではない場合も
883事業所が休業しているということですが、この休業の中にはデイサービスとしての営業はしていないけれど、訪問や電話対応による安否確認や運動指導などを行い、介護報酬を得ている事業所も含まれているようです。
なので、厳密にいえば休業ではない事業所も合わせた事業所数として883事業所になります。
もちろん、休業や通所中止・短期入所中止だけではなく、密を作らないように利用定員を制限する事業所や、活動時間を分ける事業所などもでています。
利用者が自主的にお休みをしている場合もありますので、休業していない事業所も、経営的には大きなダメージを受けていると思われます。
現場からの悲鳴
現場の職員からも休業を求める声が広がっています。
職員にも感染リスクはある。どんなに対策をしていたとしても、クリーンルームを作ることもできないし、少ないスタッフが防護服やフェイスガードをつけた状態で食事や入浴など、同時多発的に多数の利用者をケアすることはできない。
休業をしなければ、職員は利用者を受け入れざるを得ない。
都道府県による休業の要請が必要だという声が現場からも起きています。
自治体は休業要請を行わず、サービスの継続方針。
けれど、自治体側はデイサービスの休業を要請していません。
自治体が求めているのは、サービスの継続です。
デイサービスなどの通所施設とショートステイなどの短期間のみ入所する施設について、全国の都道府県のおよそ9割が、現時点では新型コロナウイルス対策の特別措置法に基づく「緊急事態宣言」を受けて休業要請などを行う予定はなく、今後もサービスを継続させる方針です。
介護施設のうち、特別養護老人ホームなどの入所型の施設は、法律に基づく緊急事態宣言を受けて使用の制限や休業の要請ができる対象にはなっていませんが、デイサービスなどの通所施設とショートステイなどの短期間のみ入所する施設は、知事が必要だと判断した場合使用の制限や休業の要請ができるとされています。
NHKが緊急事態宣言の対象地域拡大を受けて、全国の都道府県に取材したところ、「施設の使用制限をする方針」とか「休業要請をする方針」と回答した自治体はなく、41の都道府県が休業要請などは行わず「通所系」や「短期入所系」の介護サービスを継続させる方針です。
一方、新潟県、長野県、香川県、愛媛県、奈良県、沖縄県は、現時点では方針は決まっていないとしています。
NHK NEWS WEBより
つまり、介護サービス事業所に休業要請を出した都道府県はないということです。
はっきり言って、いっそのこと休業要請を出してもらいたいと思っている事業者は多いと思います。自主的に休業することで、利用者や家族、心無いケアマネから苦情を言われることなども不安に感じているかもしれません。
デイサービス事業所の立場の弱さが、休業への判断を鈍らせているのではないでしょうか。
そして、デイサービス休業中にケアマネが打てる手もありません。
ショートステイも受け入れ中止し、頼みの綱のヘルパーも人手不足が深刻で新規受け入れができない事業所が増えています。
事業所の中には、利用者や家族に発熱あったら行きません。ってところも多くなっています。
そりゃ職員を守るのも大事なんですけど、わかるんですけどね。
カラオケや屋内スポーツ施設はダメ。でもデイサービスは?
すでに全国各地で出されている休業要請では、カラオケや屋内スポーツ施設などもその対象になっています。
カラオケは休業要請の対象だけど、デイサービスではカラオケをしている。
スポーツジムは休業要請の対象だけど、通所リハビリでは運動をしている。
その違いはどこにあるのか?
楽しみでやっていようが、リハビリ目的でやっていようが、密な空間で行われる行為が同じであれば、感染リスクも同じ。
どんなに注意しても、感染対策には限界がある
そして、密な空間で基礎疾患を抱えた多数の利用者を受け入れていることも含めると、デイサービスは非常にリスクの高い場所と言えます。
そして、受け入れる対象者は認知症も含め、感染予防の理解の薄い利用者です。
それで感染を出さないように感染対策をしながら営業を続けろと。
やれることにも限界がある。
これはさすがに超ハードモード。無理ゲーですよ。
利用者への影響を最小限にするには?
ただ、デイサービスが休業することで、利用者にも影響があると警鐘を鳴らす人もいます。
名古屋市のケアマネージャー水野勝仁さんは、緑区のデイサービスを利用する72歳から99歳までの男女21人の高齢者を受け持っていました。ところが、市内の高齢者に新型コロナウイルスの感染が確認されたため、名古屋市は緑区と隣の南区にある126のデイサービス事業所すべてに先月7日から2週間休業するよう要請しました。
水野さんは、2週間の休業の間に受け持っている高齢者の様子が変化したと感じたことから、利用者の身体機能や認知機能にどのような影響があったか本人や家族に聞き取りを行いました。
その結果、
▼立ち上がったり歩いたりするスピードが遅くなったり筋力が落ちて転んだりするなど運動機能が低下したとみられる人が7人、
▼日付や曜日がわからなくなったり空き缶を拾ってきたりするなど認知症が進行したとみられる人が8人いました。両方の影響が見られた人も2人いて、デイサービスの休業によって身体機能や認知機能に何らかの影響が見られた人は6割にあたる13人にのぼりました。
デイサービスが休業していた間訪問介護など代わりのサービスを利用していた人は、21人中12人と半数余りにとどまり、残りの人たちの中には代わりのサービスが見つからず家族が仕事を休んだり泊まり込んだりして介護にあたったケースもあったということです。
水野さんは、「今回の調査はあくまでも主観に基づくものだが、介護サービス事業者の休業が高齢者の身体機能や認知機能に大きな影響をもたらすことがわかった。デイサービスの機能を家族だけで補うことは難しく、地域の介護サービス資源にも限界があるため、自主休業の動きが広がっていくと、代わりのサービス探しが大きな課題になるだろう」と話していました。
NHK NEWS WEBより
二週間デイサービスを休んで、どこまで影響があるか、あくまで主観的な情報でしかないのですが、このような影響を危惧する声も出ています。
厄介なのは、二週間で済むわけではなく、長期にわたってサービス利用ができないことによる影響も懸念しなければいけないということです。
二週間くらいお風呂入らなくっても、二週間くらい運動しなくっても、くらいは言えそうですが、それ以上となるとどうなるか。
もちろん、認知症の進行やADLの低下などもあるでしょう。
それでも、それでも、命には代えられません。
利用者一人の命ではなく、一緒に利用するほかの利用者や職員、さらにその周りにいる家族の生命までを脅かすリスクもあるのです。
状態が悪化する時間が早まったと思い、あきらめるしかないでしょう。
コロナ以前を求めてはいけない。割り切ることも必要です。
これまで100のサービスを提供していた事業所が100を行うのではなく、70でも50でも、利用者のためにできることは何かを考えることが重要ではないでしょうか。
休業と補償はセット
名古屋市でデイサービスに休業要請を出した時、およそ半数の事業所が休業しました。
名古屋市では休業したデイサービスに休業補償を行うことを事前に明言し、実際に総額一億円規模の休業補償を行うことが発表されました。
この補償があったからこそ、名古屋のデイサービス事業所は休業を決断できたのではないでしょうか。
自主的な判断による自粛を求めるのではなく、補償もセットで行うことが必要でしょう。介護保険事業所の多くは経営規模の小さな事業者です。補償を手厚くしなければ、地域を支える資源は消滅してしまいかねません。
休業要請や自粛を促すのであれば、はっきりしたメッセージを発する自治体のリーダーシップが必要とされます。
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