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次回報酬改定で注目されるアウトカム評価
厚生労働省は2021年度に控える次の改定に向けて、栄養管理や口腔ケア、排泄ケアなどの分野で介護報酬のアウトカム評価を拡大できないか検討していく。
既存の加算の取り組み状況や効果などを分析するための調査を来年度に実施する。結果の一部を来秋にまとめ、改定をめぐる議論のエビデンスとして活かしていく。
24日、こうした計画を社会保障審議会の分科会で提案。委員から大筋で了承を得た。
介護報酬のアウトカム評価の拡大は、健康寿命の延伸や給付費の適正化を目指す政府全体の方針。利用者の自立支援、重度化防止につながる効果的なサービスの提供を促し、現場に広く浸透させていきたいという思惑がある。
厚労省は24日の分科会で、既存の加算の分析を通じて新たなアウトカム評価を導入する道を探る調査を、今年4月からスタートさせると説明。「栄養管理、口腔機能の維持、排泄支援などの既存の加算について、アウトカムに基づく加算へ移行することが可能かどうかを検証する」との構想を明らかにした。
口腔、栄養、排泄で介護報酬のアウトカム評価拡大を検討 厚労省 |介護のニュースJOINT
社会保障審議会で、アウトカム評価による介護報酬上の加算を拡充していく方向性が示されました。
やれやれ。
アウトカム評価についてはこれまでも議論されてきました。
でも、すでに介護保険ではアウトカム評価も導入されているんです。
現行の介護報酬上のアウトカム評価
バーセルインデックスによるアウトカム評価
みなさん、今も介護報酬の中にアウトカム評価があることを知っていますか?
通所介護や地域密着型通所介護にはADL維持等加算という加算があります。
2018年の介護報酬改定の際に導入された加算です。
評価期間中のバーセルインデックスで測定した、
食事、車いすからベッドへの移動、整容、トイレ動作、入浴、歩行、階段昇降、着替え、排便コントロール、排尿コントロール
という10項目で評価を行い、その合計を100点満点で評価するのがバーセルインデックスです。
これらの書類を作成し、評価期間のADLの変化を測定し、数値が5点上がっていればADL利得+5とし、ADL利得が0以上で算定できる加算になっています。
ADL維持等加算の算定実績
ということは、このADL維持等加算を導入した成果が出ているので拡充していこうというものなのか・・・。
というわけではなく。
たとえば2019年10月分の介護給付費等実態統計で、その算定実績を見てみましょう。
通所介護のADL維持等加算算定実績
通所介護:ADL維持等加算
・ADL維持等加算(Ⅰ)約28,700件
・ADL維持等加算(Ⅱ)約18,000件
通所介護の算定数が12,386,200件のうち、0.3%しか算定していない加算です。
ちなみに、個別機能訓練加算を算定しているのはⅠとⅡ合わせて6,885,300件です。個別機能訓練でこれだけ実績の数が上がっているのに、ADL維持等加算を算定しているのはごくわずかでしかないのが実情です。
では、地域密着型通所介護でも見てみましょう。
地域密着型通所介護の算定実績
地域密着型通所介護:ADL維持等加算
・ADL維持等加算(Ⅰ) 約1,000件
・ADL維持等加算(Ⅱ) 約1,000件。
地域密着型通所介護は3,894,600件の算定実績がありますが、そのうちのわずか0.05%です。
たったこれだけの実績です。単位数でも全国合計で9,000単位にしかなりません。
それを効果的なサービスとして拡充しようとか、どうかしています。
ADL維持等加算を算定するには申請も必要なので、導入までの時間がかかってしまった事業所もあるかもしれませんが、それでももう1年半は経過している状況でこの算定実績です。
書類作成が非常に煩雑なこともこの加算を取得しにくくしている要因であることは間違いないでしょうけれど。
要介護者の半分は自立にできる?
こういったアウトカム評価の導入の裏には、社会保障審議会や未来投資会議などでの竹内理論の暴走があったのではないかと考えています。
まず、自立支援介護、ちょっと耳なれない言葉だと思います。これの説明なのですが、一旦要介護になった人をもう一度自立状態に引き戻す介護でございまして、従来のものとは方法と理論が異なる新しい介護だと御理解いただきたいと思います。どれぐらい戻れるのかということ、これまでの実績から大ざっぱに検討してみると、現在の要介護者の約半数ぐらいは、要するに、半減ぐらいはできそうだと私は予想しているのですが、そのための仕組みづくりをこれからすごくやっていかないといけないということになります。
平成28年11月未来投資会議 竹内孝仁 国際医療福祉大学教授の発言 より
要介護者は半分に減らせるんだそうです。
へえ。
もう一度言いますよ。
要介護者の半分は自立できるんですって。
じゃあ竹内理論を導入している特養に入所している利用者はどうなりました?半分は自立するのであれば、自立もしくは要支援の認定を受けて特養入所の要件を外れる人は半分はいるわけですよね。
つまり、入所した方の半分以上は退所しているはずですよね?
認知症も水で治るんですよね?
認知症だって治る人は治ります。水頭症とか、手術で治る認知症はありますから。
でもみんながそうなるわけでもないし、少なくとも半分が自立できるというのはどう考えてもおかしいでしょ。
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ADL維持等加算の見直しから
まずは現行のADL維持等加算の見直しをすべきでしょう。
この加算の導入に向けてどれだけの予算が投入されたのか。
加算の取得のために障害となっているものは何か。書類作成の煩雑さか、利用者の要介護度の基準をクリアすることか、バーセルインデックスでの評価をすること自体が難しいのか。
そういった評価をしていかないと、また新しい加算を作っては古い加算は忘れ去られてという繰り返しになるだけです。
ペーパーレス化の必要性が叫ばれている今、これ以上介護職員に書類などの負担を増やすことなく条件を満たすことが可能な加算の算定方法を考えることが最優先になるでしょう。
アウトカム評価の比重が高くなることの弊害
アウトカム評価に限らず、介護予防を進めていくことはもちろん重要です。介護保険の理念は自立支援です。
ただ、アウトカム評価の比重が大きくなると、事業者が利用者を選ぶ現象が起きます。これは間違いないでしょう。
デイサービスが、介護度の改善しやすい利用者を選定するのです。
脳梗塞からの退院後、年齢的に若い、意欲がある、前回の認定調査は入院中に受けた・・・など
介護の仕事をしてきた人なら、要介護度が改善する可能性の高い人なんてわかりますよ。
認知症や意欲が低下している人、90歳以上、精神疾患、基礎的な生活の管理ができない環境、など。
そんな利用者がいれば、ADL改善の見込みが少なくなるので、意図的にデイサービスが受け入れなくなるでしょう。
その反面、ADL改善の期待が持てない利用者を受け入れざるをえないデイサービスもでてくるでしょう。
このようにデイサービスの事業所間格差が生まれる可能性があります。
リハビリテーションによる改善の伸びしろが少ない人にとっても介護保険のサービスは非常に重要です。
終末期を支える在宅介護サービス、老々介護などの複合的な問題を抱える家庭、介入困難なケースなど、介護保険のサービスが命綱となっているケースも多くあります。
そういった事業所側にも負担の大きなサービスが、報酬上低く評価されてしまうという方向性は容易に歓迎すべきものではないと思います。
追記:2020年3月28日
こんな記事が出たので紹介もしておきます。
2018年度の前回の改定で新たに導入された介護報酬のアウトカム評価「ADL維持等加算」− 。昨年4月時点でこれを算定している事業所は、通所介護で全体の2.6%、地域密着型通所介護で0.3%にとどまっていることが、厚生労働省が26日の専門家会議で公表した調査の結果で明らかになった。
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いまさら感がありますが。国としては何としてでもアウトカム評価を広げていきたいんでしょうし、要件を緩和していくんでしょうね。
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