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介護職員を傷害致死罪で起訴 訪問先障害者に暴行 札幌地検
訪問介護サービス先の男性に暴行を加えて死亡させたとして、介護職員の男が逮捕された事件で、札幌地検は9日、傷害致死罪で、札幌市豊平区、介護職員太田幸司容疑者(24)を起訴した。
起訴状によると、太田被告は7月19日から20日にかけ、同市東区のマンション居室で、この部屋に住む無職山下茂樹さん(35)の顔を数回殴るなどの暴行を加え、死亡させたとされる。
地検は太田被告の認否を明らかにしていない。捜査関係者によると、道警の聴取に同被告は「本来は寝ている時間なのに、騒ぐから殴った」との趣旨の供述をしているという。
北海道新聞(どうしんWeb)
訪問介護サービスを利用していた障がい者がサービスに訪問していた介護職に暴行されて亡くなったという非常に残念なニュースです。
自分も訪問介護をしていたこともありますし、夜間の巡回などをしていたこともあります。
イライラすることがあることもわかります。その原因がプライベートなことであれ、仕事上に抱えているストレスであれ、けれど、それを暴力という形で表面化させてしまうことは許されるものではありません。
暴行に至った原因は何だったのか
別の記事でもこのように記載されています。
太田容疑者は警察の調べに対して容疑を認め「寝つかないので腹が立った。顔を中心に短時間で繰り返し殴った」と供述しているということです。
NHKニュース
このような記事もあります。
地検は太田被告の認否を明らかにしていない。捜査関係者によると、道警の聴取に同被告は「本来は寝ている時間なのに、騒ぐから殴った」との趣旨の供述をしているという。
北海道新聞(どうしんweb)
寝付かないので腹が立った
はっきり言いましょう。いつ寝ようが、勝手でしょ。眠れない日だってありますよ。同じ人でしょ。
それに腹を立てることがそもそもおかしい。
この利用者宅に滞在していたようなので、サービスとしては重度訪問介護になるのでしょう。
いまれいわ新選組から参議院議員となった二名が主張し、仕事中に利用できるように先日質問主意書を提出したサービスですね。
重度訪問介護とは
夜間の訪問介護であれば、介護保険であれば定期巡回随時対応型訪問介護看護サービスや夜間対応型訪問介護などのサービスがありますが、あくまで滞在するサービスではなく、細切れで必要なサービスを提供するものです。
これに対して、重度訪問介護は障害者自立支援法のサービスで、「重度の肢体不自由者又は重度の知的障害、若しくは精神障害により行動上著しい困難を有する障害者」を対象にしています。常時の介護や見守りが必要なため、24時間絶え間なくサービスを受けることができます。
たとえば24時間を3人で分けて、8時間+8時間+8時間といった形でサービスに入ります。
担い手が不足する重度訪問介護
ただ、高度なコミュニケーションや医療的なケアなどの知識が必要とされる重度訪問介護のサービス。サービスを提供する担い手が不足しているのは非常に大きな課題です。重度訪問介護のサービスで指定を受けていたとしても、実際に提供できる事業所数は地域内でもかなり限られているという印象です。
今回の暴行事件でも、重度訪問介護のサービス利用中に起きた事件だと思われます。
このような記事も見られます。
東署によると太田容疑者は「寝付かないので腹が立った」と供述している。北海道警は介護を巡るトラブルが事件の背景にある可能性があるとみて捜査している。関係者によると、同容疑者は2017年10月頃から男性を担当、今年に入ってから週3、4回介護していた。
サンスポ.com
サービスの担い手不足で、限られた職員に負担がかかるという現象は訪問介護の現場でも非常によく見られます。
この利用者の担当になってかなり期間も長く、ひょっとしたら積もり積もったストレスやマイナスの感情などが爆発したのかもしれません。
重度訪問介護を提供する介護職の負担
「寝てほしい」気持ちはなんとなくわかります。寝てくれれば当然、ヘルパー側も楽ですよ。やることなくなりますから。仮眠だってできる。利用者が寝るか寝ないかで仕事の質は全く異なります。
だからといって殴っていい理由になんてなるわけがない。しかも、何度も何度も顔面を殴るなんて、普通考えられない。
確かに、重度訪問介護は長時間のサービスで、ヘルパー側も休む時間がありません。サービス提供中にヘルパー自身も食事を食べたり、トイレに行くことも必要になります。事業所によっては8時間以上の時間を振り分けている場合などもあるようです。
利用者にとっては利便性の高いサービスではありますが、ヘルパーや事業所側にとっては、肉体的な負担というよりも精神的なストレスがたまりやすいサービスであることは間違いありません。
訪問介護事業所の責任は
繰り返しますが、このヘルパーのやったことは許されることではありません。利用者の顔面を何度も殴っただけではなく、それ以外にも複数のあざがあり、ひょっとしたらこれまでも繰り返し暴行を重ねてきた可能性もあるということです。
ただ、やはりこういった状況を生んだ事業所の責任も考えなければいけません。
長時間勤務が常態化していたのか、もし長時間週3~4日も同じ利用者に入るということであれば精神的なストレスの部分について配慮ができていたのか。担当を長期間続けていたこともあり、そのほかのヘルパーとの連携や、本人から何かサインなどがあったかなど、ひょっとしたら未然に防ぐことができるポイントもあったのではないでしょうか。
人が足りないというだけで片付けていてはこのような事件はなくなりません。
れいわ新選組の議員二人には、重度障害者の立場から、サービスを利用する側に立った意見だけでなく、サービスを提供する人や支える人が増える仕組みづくりに積極的に取り組んでほしいと願っています。
追記:「暴行は悪質」懲役5年を求刑
この事件に関して、札幌地裁での判決が出ましたので追記します。
札幌市東区で2019年7月、訪問介護先の障害のある男性に暴行を加えて死亡させたとして、傷害致死罪に問われた同市豊平区、介護職員太田幸司被告(25)の裁判員裁判判決公判が17日、札幌地裁であった。駒田秀和裁判長は「寝たきりで意思疎通も難しい被害者への暴行は悪質」として、懲役5年(求刑懲役6年)を言い渡した。
死亡した男性は同市東区の無職山下茂樹さん=当時(35)=。
判決理由で駒田裁判長は、太田被告が山下さんに約2時間、断続的に殴る蹴るの暴行を加えたと認定。同被告が15日の被告人質問で「分からない」と繰り返した暴行の動機については「業務のストレスや、仕事が思うようにいかない劣等感、いらだちといった負の感情が噴出したと考えられる」と述べた。
障害者暴行死 元介護職員に懲役5年 札幌地裁判決 |北海道新聞
仕事で積み重なった疲労やストレスから過ちを招いた、とか、連休が取れなかったとか、確かに今の訪問介護の現場は人材不足も深刻であることは理解できます。
でも、どんなストレスがあったからといって、こんな暴行殺人を事件に情状酌量をはさむ余地はありません。
2時間もの間、殴るけるといった暴行を続けたということで、非常に悪質な事件です。常習的に暴行が行われていた可能性も考えられます。
また、裁判では「重大な背信行為」として、訪問介護に対する社会的信用を大きく傷つける内容であったことも言及しています。
このような事件が二度と起こらないことを願います。
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