介護は肉体的にも・精神的にも非常に大きなストレスを伴います。そして、そのストレスが虐待につながることもあります。
虐待は大きく、身体的虐待・心理的虐待・性的虐待・経済的虐待・介護や世話の放棄(ネグレクト)という5種類に分類されます。5種類のいずれか、もしくは複合的に虐待が行われていることも少なくありません。
虐待は家庭の中でも、施設の中でも起こりうることです。虐待の事実を必要以上に隠すことではなく、そこから学んでいくことで、利用者の権利擁護に目を向けることや、介護職員によるケアの質を向上させること、地域の介護力を向上させていくことにもつながっていきます。
虐待の事例などをもとに、その原因や背景などを探り、そういった悲劇が繰り返されないようにしていければと考えています。
この記事の目次
施設内虐待
介護保険施設や医療機関などで行われる虐待の事例を集めてみました。
特に報道などでも注目された事例のいくつかは、詳細も含めて別に分けて紹介しております。
グループホーム
夜間の職員体制が一人になる場合も多く、応援が得られないなど、グループホームの夜勤は非常にストレスの大きな業務となっています。当然利用者はみな認知症を抱えているので、突発的な対応が必要になる場面も多くあります。
ただ、日中の時間帯に行われる虐待事例も多くみられます。少人数であるため、職員への教育が不十分でケアの質が維持できないという側面もあるのでしょうか。
介護老人保健施設
事例を見ていると介護老人保健施設での虐待事例が多いことに気が付きます。これは、介護老人保健施設がリハビリ施設であり、家族の目など施設外部の人のに触れる機会が多いことも要因になるのかもしれません。また、多職種が協働している施設ですので、様々な視点から虐待の事実が発覚し通報するという流れが生まれやすいのかもしれません。
特別養護老人ホーム
特別養護老人ホームでも虐待の事例が多く報告されています。複数の入所者が被害者になる事例が多くみられています。
夜勤も多く、職員の確保が難しいため、介護職員の質も差は大きいと感じます。
デイサービス
デイサービスで虐待が起きるケースもあります。お泊りデイサービスという自費で夜間のレスパイトサービスを行っている事業所でも虐待の事例が報告されています。
有料老人ホーム
有料老人ホームでの虐待事例も紹介します。
大手事業者であれば職員教育もしっかりしているだろうし、安心というわけではありません。大手事業者での虐待報道も数多くあります。Sアミーユの連続殺人などの極めて悪質なケースなどもあります。
その他施設
訪問介護
ヘルパーが自宅に訪問する訪問介護サービスでも虐待のケースがあります。独居の利用者も増えていますので、虐待の事実が表面化しないケースも多くなっていく恐れがあります。
また、訪問介護のサービスでは経済的な虐待のケースも多いのですが、それはまた下の方にまとめております。
障害者施設
高齢者施設だけでなく、障害の施設でも虐待はあります。身体的虐待だけでなく、性的虐待の報告も多くなります。
医療機関
医療機関では治療のために身体拘束などが行われることも多くありますが、そういった目的外でも過剰な身体拘束や患者に対する暴力が行われる場合があります。
爪剥ぎ事件に代表されるように、医療行為・看護と虐待の境界線をめぐって論争になることもあります。
話題に上がった施設内虐待のニュースについての紹介
石川県かほく市グループホームたかまつ
2005年、石川県かほく市のグループホームに入所していた利用者が介護職員に殺害されたという事件です。介護職員による虐待のニュースなどはあったとしても、意図的に利用者の命が奪われる事件はなく、当時は非常にショッキングな事件で、ニュースなどにも取り上げられていました。
書籍などにもなっています。
当時の施設長も 「あってはならない事例をつくってしまった。」 とコメントしている通り、本当にあってはならない事例でした。
でも、時代は変わり、今は複数名を殺害するという事件もあります。かほく市の事件が「死んでしまうかもしれないけれど死んでしまったとしてもかまわない」という未必の故意であるのに対して、明らかな殺意を持って殺害するという事件も起きています。
「あってはならない」時代から「あったとしても決しておかしくない」という時代になっていきました。一つの転換点でもあるのかもしれません。
東大和市特別養護老人ホームさくら苑
介護の内容を不審に思った家族がテープレコーダーを設置し、職員の会話の内容から虐待に当たる内容を確認したのがこの施設での虐待騒動の発端でした。自分の管理している掲示板にもさくら苑の元職員からの報告があるなど、大きな余波を読んでいました。
その一年後にも入浴介護中の事故で利用者がなくなるということがありました。あくまでこれは過誤だと思うのですが。
岡山県特別養護老人ホーム阿知の里
特別養護老人ホームの入所者に多数の不自然な皮下出血があるという医師の告発から、女性介護長と施設幹部との対立となったケースです。結論として、介護技術の未熟さはあったが虐待ではなかったと結論付けられ、虐待はこの介護長による偽装だったのではないかと、介護長が懲戒解雇されています。
有料老人ホームぶるーくろす癒海館
入所者をペット用の檻の中に入れたり、手錠をしたりという虐待を行っていたのがこのぶるーくろす癒海館です。無届老人ホームという形態でしたが、そこにも注目が集まりました。他の施設や医療機関で受け入れを拒否されていた利用者がこの施設に来ていたということで、社会全体の問題としてこういった施設を生んでいることも大きな問題として取り上げられました。
グループホームすこやか
グループホームの職員が入居男性を絞殺したという事件です。懲役8年の実刑判決となりました。弁護側がてんかんによる窒息死ではないかと主張していましたが、その意見は退けられた形になります。
介護付き有料老人ホームSアミーユ川崎幸町
有料老人ホームで利用者が相次いで3人転落死するという事件。
その後、Sアミーユは損保ジャパンに吸収され、そんぽの家という名称になっています。もちろん、この事件の影響も大きかったと思います。
証拠が残りにくく、ストレスなどでの情状酌量をされることもある虐待事件ですが、死刑判決という審判が下ることはいかにこの事件の残酷さが大きなものだったかを裏付けています。
岐阜県高山市介護老人保健施設それいゆ
連続して不審死が起こった介護老人保健施設。録画しているハードディスクなども破壊されており、内部の犯行が疑われていましたが、容疑者の逮捕に至るまでには1年半もの時間を費やしていました。
奈良県介護老人保健施設こころ上牧
夜間、巡回中の夜勤職員が首を絞められて死んでいた利用者を発見して通報したというものですが、逮捕されたのは第一発見者の職員でした。
特別養護老人ホームフラワーヒル
連続暴行死事件ですが、この事件の異質性は犯行に及んだ元職員の動機です。それは「褒められたかった」というものでした。
自ら利用者を殴り受傷させ、自分が第一発見者になることで注目を集めていたとのことでした。そんな身勝手な理由で利用者を暴行するという信じられない事件に世間の注目も集まりました。
やさしい手ホームヘルパー
ホームヘルパーとして訪問していたヘルパーが金銭目当てに利用者を絞殺し、キャッシュカードを盗んだという事件です。
キャッシュカードの暗証番号がわからず、引き出すことはできなかったようですがあまりに身勝手な犯行です。
ホームヘルパーという仕事は利用者の自宅に訪問して行うサービスですので、高いモラル意識や職業倫理が求められます。訪問介護のサービスの信頼性自体を大きく傷つける事件にもなります。
経済的虐待・搾取
介護サービスで利用者からお金を預かるということは基本想定されていませんが、老人ホームで現金管理をすることなどもあります。
そして紹介した中には「日常生活自立支援事業」で金銭管理のできない利用者の金銭預かりや支払い代行を行うサービスで預けているお金を着服したというケースもありました。
日常生活自立支援事業や成年後見人による着服など、本来利用者の財産を守るための立場が利用者の財産を奪うという、そもそもその制度の存在意義自体を否定する行為が行われていることに危機感を覚えます。
性的虐待
家庭内虐待・介護殺人
虐待は家庭内でも起こります。いや、家庭内で起きている方が多いでしょう。
介護職員が行う介護と絶対的に違うのは、家族には介護から逃げる場所がないということです。
常に付きまとう介護とそのストレスに、ふとした瞬間に手が出てしまうことが虐待に繋がっていきます。
そして、介護殺人という悲しい結末を迎えることもあります。
虐待防止法案・虐待調査
虐待通報は介護職員のみならず、国民の義務です
高齢者虐待防止法・障害者虐待防止法という二つの法律ではいずれも通報義務について記載されています。通報することは、介護職員のみならず、国民の義務でもあります。
まず今いる場所から何ができるのかを考えること。そして、勇気を持って行動すること。それだけではなく、自分を支えてくれる仲間を増やすことも大事です。
組織の論理だけではなく、介護に携わる人としての職業倫理をもって行動することを心掛けてください。
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