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新しい処遇改善、決定へ
「介護福祉士の給与が8万円増える!」と話題に上がることの多かった新しい介護職員の処遇改善について、社会保障審議会介護給付費分科会でおおむね決定しました。
「新しい経済政策パッケージ」として、全産業平均よりも給与額が大きく下回る介護職員の処遇改善のため、来年10月にベテランの介護福祉士に重点を置いて処遇改善を行うという方向性で議論がされていました。
注目されていたのは、「法人に勤続10年の介護福祉士」なのか、「業界で10年勤務の介護福祉士」なのか、という問題です。
現実的に、同一法人で介護職で勤続10年というケースは少ないです。
施設では相談員業務にまわったり、大手法人では管理職や本部の業務につくために現場を離れることが多くなります。女性の場合は結婚や出産を機に転職・退職などするケースも多いです。もちろん、新設の事業所で10年経過していない法人などもあります。
このような理由からも10年間同一法人で勤務するという条件は厳しく、ごく一部しかこの新しい処遇改善の恩恵を受けることができないのではないかと言われていました。
「柔軟な対応」としつつも、処遇改善に設定されたルール
注目されていたこの新しい処遇改善について、社会保障審議会ではこのようなルールで行うことに設定されました。
来秋の賃上げ、“リーダー級”の介護福祉士がメイン 業界10年も対象 厚労省(介護のニュースサイトJOINT)
勤続10年の介護福祉士を中心とした賃上げに向けて来年10月に新設する加算をめぐり、厚生労働省は12日、最も重視すべき人材の対象に“業界10年”の介護福祉士も加えられるようにする方針を決めた。介護福祉士の資格を有することを要件とする一方で、「勤続10年」の考え方は事業所の裁量で定められる仕組みとする。
資格を取ってから10年経っていない、複数の法人を渡ってスキルを磨いてきた、ケアマネや相談員として活躍していた、障害福祉の世界で見識を深めていた − 。
こうしたベテラン介護福祉士も、認められれば高い評価を受けられる。描かれたのは現場を牽引する「リーダー級の介護職員」という人物像。介護福祉士になってから同じ職場で10年以上働いた人のみ、という厳格なルールにはならない。
今回具体的に示されたのは、あくまで「経験・技能のある介護職員」に重点化したものであるということ。事業所内で「介護福祉士以外の介護職員」や「介護職以外の職員」の処遇改善にあてるなど、実情に合わせた柔軟な運用をすることを認める一方で、ベテランに重点が置くためのルールも設定しています。
勤続10年のベテラン介護福祉士を基本とすることはあくまで前提としたうえで、事業所の実情に合わせて業界10年の介護福祉士などを「経験・技能のある介護職員」とし、それ以外の介護職員を「その他の介護職員」、介護職以外の職種を「その他の職種」という3つのカテゴリーに分け、報酬のルールを以下のように設定しています。
- 経験・技能のある介護福祉士はその他の介護職員の2倍以上にすること
- その他の職種はその他の介護職員の二分の一を上回らない
報酬額や、どういった人材を「経験・技能のある介護職員」にするかについては勤続10年の介護福祉士を基本としながら事業所の裁量を認めているということがひとつ。
ただし、処遇改善をベテラン介護職員に重点化するという趣旨から外れないよう、処遇改善額がその他の介護職員の2倍以上になるように設定すること、介護職員以外の職種にあてる場合はその他の介護職員の半分以下にすることもルールとして設定しているということです。
月額8万円支給か、処遇改善後の年収が440万円を上回る職員がいること
さらに配分の方法にこのような記載もあります。
他産業と遜色ない賃金水準を目指し、「①経験・技能のある介護職員」の中に、「月額8万円」の処遇改善となる者又は「改善後の賃金が年収440万円(役職者を除く全産業平均賃金)以上」となる者を設定すること。
勤続10年の介護福祉士を基本とした経験・技能のある介護職員に支払われる処遇改善額としては8万円。もしくは、改善後の賃金が年収440万円をクリアする。このどちらかをクリアできる人が事業所内に一人いなくちゃいけないということです。
ということはですよ、処遇改善はその経験のある介護職員にどーん、それ以外の職員には支給しないということもできてしまうわけです。
その職員が退職したらどうするの?とか、これから職員を採用する時に「処遇改善の8万円出すよ」なんて釣り言葉をすることもできたりするの?とか、いろいろ疑問は感じます。きっとさらに細かいルールが出てくるんでしょうけれど、これ、本当にちゃんと運用できるんでしょうか。
不公平感ありありな処遇改善で、現場の不満は出ないのか
出るでしょう。不満は当然出るでしょう。
中途半端な事業所の裁量を認めて、余計にわかりにくくなっています。
極端な例でいえば、身内が介護職員だったらその職員に月8万円ぽんと渡しちゃえばそれで処遇改善なのか。介護職員が社長の愛人で月8万円を処遇改善から出しちゃうなんて事業所も出てきたり。。。
事業所の管理者以外のどんな職員を「リーダー的役割」として処遇改善の対象にするのか。
その他の介護職員に割り当てられた人は、自分の2倍以上処遇改善でお金をもらっている職員がいることがわかってしまうわけです。
当然不満は出てくるでしょう。
そして、「経験・技能のある介護職員」とされた職員と、そうでない職員との間でモチベーションの差は大きく出ることは間違いないでしょう。
非常にいきあたりばったりな政策で、しかも恒久的な処遇改善策ではないということで、ただのばら撒きになってしまう可能性が高いと考えています。
であれば、報酬改定のたびに基本報酬を削減していくのではなく、基本報酬を上乗せしていくことで安定的な事業所運営や給与体系が構築できることを目指すべきではないでしょうか。
処遇改善加算Ⅰ~Ⅲを取得していない事業所は対象外
もうひとつ。
今回の新しい処遇改善については、すべての事業所が対象になっているわけではないということです。
これまである介護職員処遇改善加算の(Ⅰ)~(Ⅲ)のいずれかを取得している事業所が今度の新しい処遇改善の対象になっています。
平成29年度末の時点で、処遇改善加算(Ⅰ)~(Ⅲ)を取得している事業所の割合は90%。残りの10%の事業所は、たとえ勤続10年の介護福祉士がリーダー的業務を行っていたとしても、この処遇改善を受け取ることができないということです。
これをきっかけに処遇改善加算を算定する事業所が増えるきっかけになればいいと思います。
とにかくわかりにくい今回の処遇改善。
たぶんさらに難解なルールが付け加えられていくんでしょうけれど、本当にこんな形でないと介護職員の処遇改善ってできなかったんでしょうかね・・・。
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