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ケアマネと利用者の預金引き出し、生命保険の受取人に
神戸・東灘の居宅介護支援事業所、市が指定取り消し
介護を担当した80代の高齢女性の預金や自宅を不当に取得したなどとして、神戸市は15日、同市東灘区住吉南町2の居宅介護支援事業所「オネスト」を指定取り消し処分とした。取り消しは10月1日付。
同市によると、同事業所の管理者兼ケアマネジャーの女性(56)は2004年から、市内で別々に住む姉妹の介護を担当。女性は10年に姉が介護保険施設に入所後、預金1千万円以上を引き出し、姉の自宅を女性名義に変更した。姉は13年に死亡。女性はその後、妹と養子縁組して生命保険金の受取人になったほか、預金3千万円を引き出すなどしたという。
市は、女性が手にした金額が介護サービスの適正な対価を上回り、姉が重度の認知症だったため同意はなかったと判断。妹についても「同意があったとしても社会通念に照らして不当」とし、経済的な虐待行為に当たると判断した。
妹は今年4月、民事訴訟を経て女性との養子縁組を解消。妹の親族が市に連絡して発覚した。女性と事業所を運営する夫(63)は市の聞き取りに「姉妹と公正証書を交わし、同意も得た」と説明しているという。
神戸市が公表したこの処分が話題になっております。
処分の内容については神戸市のホームページ上にも掲載されていますので、以下に転載します。
介護保険法に基づく居宅介護支援事業所の指定取消し処分
1.処分を行う事業所の概要
(1)事業所名 居宅介護支援事業所 オネスト
(管理者:馬越美智代)
(2)所在地 神戸市東灘区住吉南町2丁目7番17号
(3)指定年月日 平成15年8月1日
(4)サービス種別 居宅介護支援事業
(5)運営法人 有限会社オネスト
(代表者:代表取締役 馬越博邦)
(所在地:神戸市東灘区住吉南町2丁目7番17号)
2.事案の概要居宅介護支援事業所 オネストの運営法人 有限会社オネストの代表者(以下「当該代表者」という。)とその妻で当該事業所の管理者兼介護支援専門員(ケアマネジャー)(以下「当該介護支援専門員」という。)は、それぞれ一人暮らしで老齢である姉妹(A氏、B氏)の担当介護支援専門員となった(A氏は平成16年4月から、B氏は平成16年11月から)ことを契機に、両名の財産を不当に処分し又は不当に財産上の利益を得ようとした。
(1)A氏に対する行為
A氏は、平成17年6月に、アルツハイマー型認知症で認知症高齢者の日常生活自立度IIb、平成22年2月には認知症高齢者の日常生活自立度IIIbと診断された。平成22年4月にA氏が介護保険施設に入所した後、
1.当該代表者と当該介護支援専門員は、A氏名義の預金口座から平成22年11月から平成23年12月にかけて多額の出金(養子縁組離縁請求に係る平成28年6月30日大阪高等裁判所判決では、出金額は1,000万円を超えると認定されている)を行った。
2.平成23年8月26日、A氏の自宅不動産を当該介護支援専門員に対して売却させた。(2)B氏に対する行為
当該代表者は、平成22年8月17日に、B氏と委任契約及び任意後見契約を、平成25年10月4日に死後事務委任契約をそれぞれ締結し、当該介護支援専門員は、平成25年11月26日にB氏と養子縁組を行った上で、
1.B氏をして生命保険の死亡保険金受取人を当該介護支援専門員へ変更させた。
2.B氏の預金口座から3,000万円を出金して、当該代表者及び当該介護支援専門員が鍵を管理していてB氏が容易に開扉できない貸金庫に保管した。
3.B氏の自宅不動産について、負担付死因贈与契約名目で当該介護支援専門員に対する所有権移転仮登記を行った。
4.平成26年9月12日、B氏から預かっていたキャッシュカードを利用して、B氏が出金を拒否しているのを知りながら、ATMでB氏名義の預金口座から50万円を出金した。
3.処分に至る経緯平成29年5月24日 B氏家族からの裁判資料の提供
平成29年6月以降 裁判証拠資料の提供を受け、関係資料を精査
平成29年6月27日 介護保険法に基づく監査を実施
平成29年8月24日 行政手続法に基づく聴聞を実施
4.処分の内容指定の取消し
(根拠法令 介護保険法第84条第1項第4号)
5.処分年月日平成29年9月15日(金曜)
6.処分効力発生年月日平成29年10月1日(日曜)
7.処分を行う理由介護保険法第81条第6項違反
(1)要介護者に対する人格尊重義務違反(経済的虐待行為)
居宅介護支援事業所の立場を利用してサービスの提供を受ける高齢者の財産を不当に処分し又は高齢者から不当に財産上の利益を得るものであり、人格尊重義務(介護保険法第81条第6項)違反に該当する。(2)忠実に職務を行う義務違反
居宅介護支援事業所が,サービスの提供を受ける要介護者をしてサービスに対する適正な対価を超える出捐を行わせることによって経済的利益を得ようとすることは、要介護者と事業者の利益が相反することになるため、要介護者の承諾を得ていない場合には忠実義務(介護保険法第81条第6項)違反に該当する。
処分を行う理由(詳細)1 経済的虐待行為
(1) 居宅介護支援事業所 オネスト(以下「当該事業所」という)の運営法人有限会社オネスト(以下「当該法人」という)代表者とその妻である当該事業所の管理者兼介護支援専門員(以下、両名を「当該介護支援専門員ら」という)は、居宅介護支援事業において業務に従事しており、A氏及びB氏は当該事業に係るサービスの提供を受ける高齢者であった。
当該介護支援専門員らがA氏及びB氏に対して行った以下の行為は、居宅介護支援事業所の立場を利用してサービスの提供を受ける高齢者の財産を不当に処分し又は当該高齢者から不当に財産上の利益を得るものであり、人格尊重義務(介護保険法第81条第6項)違反に該当する。(2) A氏に対する経済的虐待行為
A氏は平成17年2月にアルツハイマー型認知症・認知症高齢者の日常生活自立度IIb、平成22年2月には認知症高齢者の日常生活自立度IIIbと診断されて当該介護支援専門員が担当していたところ、当該介護支援専門員らは、A氏名義の預金口座から平成22年11月から平成23年12月にかけて多額の出金((養子縁組)離縁請求控訴事件 平成28年6月30日大阪高等裁判所判決では、出金額は1,000万円を超えると認定されている)を行い、また、平成23年8月26日、不動産売買契約書を締結し、A氏の自宅不動産を当該介護支援専門員に対して売却させた。A氏が当時、認知症高齢者の日常生活自立度IIIbと診断されていたことなどから、上記のことは、A氏の意思に基づいて行われたものとは認められない。(3) B氏に対する経済的虐待行為
1.当該介護支援専門員らは、委任契約および任意後見契約に基づいてB氏から預かっていたキャッシュカードを利用して、B氏が出金を拒否していることを知りながら、平成26年9月12日、ATMでB氏名義の預金口座から50万円を出金した。
2.当該法人の代表者はB氏と平成22年8月17日に委任契約及び任意後見契約を、平成25年10月4日に死後事務委任契約をそれぞれ締結し、当該介護支援専門員は平成25年11月26日にB氏と養子縁組を行った上で、当該介護支援専門員らは、B氏の預金口座から3,000万円を出金して当該介護支援専門員らが鍵を管理していてB氏が容易に開扉できない貸金庫に保管し、B氏の自宅不動産について負担付死因贈与契約名目で当該介護支援専門員に対する所有権移転仮登記を行った。また、B氏をしてB氏が契約していた生命保険の死亡保険金受取人を当該介護支援専門員へ変更させた。
これらの財産の処分行為は、金額が高額であることや上記各行為の前後の状況等からして、B氏が自由な意思に基づいて同意したものと認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在すると認めることはできず、仮にB氏が同意していたとしても、社会通念に照らし不当な財産処分行為である。2 忠実に職務を行う義務違反
(1) 指定居宅介護支援事業者は、要介護者のため忠実に職務を遂行しなければならない義務を負っており(介護保険法第81条第6項)、指定居宅介護支援事業者は、その義務を履行するために、居宅介護支援事業に従事する役職員、管理者及び介護支援専門員に対し、要介護者のため忠実に職務を遂行させなければならない。
指定居宅介護支援事業者及びその役職者等が、サービスの提供を受ける要介護者をして当該要介護者に提供する介護支援サービスに対する適正な対価を超える出捐を行わせることによって経済的利益を得ようとすることは、要介護者と当該事業者の利益が相反することになるため、当該要介護者の承諾を得ていない場合には忠実義務に違反することが明らかであるし、当該要介護者の承諾を得ていた場合であっても、要介護者が自由な意思に基づいて承諾したものと認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在すると認めることができなければ、居宅介護支援事業として正当性を認めることはできず、忠実義務違反行為に該当する。(2) 当該介護支援専門員は、その職務の遂行過程において、前記1記載の行為に及び、要介護者であるA氏及びB氏の経済的負担によって多額の財産上の利益を得又は得ようとした。このうち、A氏に関する部分は、A氏の意思に基づくものではないため忠実義務に違反することが明らかであるし、B氏に関する部分についても、B氏が出金を拒否していることを知りながら行った50万円の出金が忠実義務に違反することは明らかである。
B氏に関する50万円の出金以外の部分は、当該法人の代表者が平成22年8月17日に委任契約及び任意後見契約、平成25年10月4日に死後事務委任契約をそれぞれB氏と締結し、当該介護支援専門員が平成25年11月26日にB氏と養子縁組を行うなどして、B氏が拒絶しにくい関係を構築した上でB氏の財産から多額の利益を得ようとしたものである。
当該介護支援専門員らがB氏から取得しようとした財産額はB氏が受けられるサービスに対する適正な対価を著しく超過しているし、その前後の状況等からしてB氏が自由な意思に基づいて同意したものと認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在すると認めることはできない。そのため、B氏の経済的負担によって当該介護支援専門員らが多額の利益を得ようとしたことは、仮にB氏の承諾があったとしても忠実義務に違反する行為である。(介護保険法第84条第1項第6号)
サービス情報公表制度のホームページで確認したところ、
管理者兼務のケアマネ馬越美智代1名のみ、
併設事業所のない独立居宅事業所で、
このケアマネは言語聴覚士(ST)の資格を持っていて、経験年数も5年以上で主任ケアマネでもあるようです。
事業所の運営方針として、
利用者が要支援、要介護になった場合においてもなるべく居宅で自立した日常生活を営めるように適切なサービスが施行されるように配慮する。サービス提供にあたり、利用者の人格を尊重し、特定の事業者に偏することないように公平かつ中立に実施する。
と記載がされています。
ひとりケアマネですが、平日だけでなく土曜日も営業しており、日曜祝日も対応するということで、
とても熱意のある事業所に思えます。
それがなぜこのような事件に至ったのか。
神戸市が公表した経済的虐待とされる内容を振り返りながらみていきます。
神戸市の公表した経済的虐待の内容から事件の概要を振り返る
A氏の場合(アルツハイマー型認知症)
利用者のうちAは認知症で介護保険施設に入所したのちに、ケアマネと任意後見の関係となっています。
そして銀行口座からの多額の出金と自宅不動産の売却を行ったとされています。
ケアマネとしてマネジメントしていた時に行われていたことではなく、施設入所して自分の担当を離れた後での問題となっています。
つまり、ケアマネではなく、任意後見人としての活動になります。
施設の利用料を支払うために通帳から引き出した金額として1000万円という金額が妥当かどうか。
まあ、特養だったとしたら明らかに不適切だとは思いますが。
この姉妹に他にかかわる親族もなく、だれも住まず管理のできる人のいない不動産の売却を行った。
その経過について、適切な手続きが取られていたかどうかというのが争点になりそうですが、
これはきっと施設側も周知していた可能性もありますよね。
もちろんいろいろ倫理的な問題はありそうですが、
後見人としては必要な状況に迫られていた可能性もあるのかなと、同情できる側面もあります。
B氏の場合
B氏に関しての経済的虐待に関しては、主に3点。
1.銀行口座から50万円を引き出した(B氏は拒否していた)
2.任意後見・養子縁組したのちに3000万円を引き出し貸金庫に保管
3.自宅不動産の所有権と生命保険人の受取人をケアマネに変更。
たとえば、日常生活自立支援事業など公的な制度を利用して、
通帳の管理や現金引き出しを行うことができていればクリアになっていたのかもしれません。
日常生活自立支援事業については、お金を引き出すたびにいちいちお金もかかるし、
利用する側の理解を得にくい事業ではあると思いますが、
このケアマネがこういった制度を提案することができていたのかどうかも重要ですよね。
誰もかかわる家族がおらず、
何かあったときに唯一頼れる後見人に受取人になってほしいと本人から依頼されるということも
状況によってはまったく考えられなくもない話です。
この問題の本質はどこにあるのか
誰も管理することができなくなった高齢者の財産をどう守るのか。
このケースではケアマネがB氏の後見人として活動している際に起こった問題です。
ただ、ケアマネが後見人をすることを禁じる法律はないわけです。
問題の本質はケアマネとして行ったプロセスに関する問題ではなく、
後見人として行った行為についての問題です。
特にA氏の場合にはケアマネとしての契約は終了している時点で起こっている問題です。
後見人による財産の不正利用についてはこれまでも様々な事件が発覚し、問題視されています。
ケアマネが後見人になるのを禁じたとしても、この問題は解決にはならないでしょう。
後見人制度が不正の温床にならないためにどうすべきか、という点が重要なのではないでしょうか。
そして、この女性が、後見人として行ったことに対して「ケアマネが行った」不正という側面ばかりをクローズアップし、
ケアマネは悪意をもって私利私欲のために高齢者の財産を吸い尽くす、という見方だけに偏らないことも大切です。
別の記事では事業所側はこれを否定しているようです。
一方、事業者側は不正を否定しています。オネストの代表者は、「不服申し立てをいたしますので、常識でものを考えてください。そんなこと私どもはできません」と取材に答えました。
実際、この不服申し立てがどのような結果になるのか、注意深く見ていきたいですね。
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