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訪問看護事業所のリハビリテーション
令和3年4月、介護報酬改定
令和3年4月に介護報酬改定が行われます。
介護保険事業所には新型コロナウイルスの影響も大きく、深刻な利用者数減・収益ダウンとなっている事業所も少なくありません。
そんな社会情勢や、医療・介護従事者への社会的評価が高まっている機運もあり、「大幅なマイナス改定はないだろう」「介護報酬アップするんじゃない?」という楽観的な見方が強まっていました。
訪問看護事業所のリハビリテーションスタッフ多すぎ問題
そこに降ってわいたように飛び込んだのが、訪問看護の看護師6割問題です。
これ、何かというと、訪問看護事業所にリハビリテーション専門職が多すぎるんじゃないかっていう指摘に始まっています。
厚生労働省は16日、来年4月の介護報酬改定に向けた協議を重ねている社会保障審議会の分科会で、訪問看護の運営基準の見直しを提案した。
サービス提供を担う職員に占める看護職員の割合が6割以上であることを、介護保険の給付を受ける必須の条件にしてはどうかという。一定の経過期間を挟んだうえで適用したい考えを示した。
リハビリテーション専門職による訪問が非常に多い事業所があることを念頭に置いたもの。事実上の“訪問リハステーション”を認めないスタンスを鮮明に打ち出した格好だ。
厚労省は会合で、訪問看護の本来の役割・機能を次のように改めて明示した。
「疾病、負傷で継続して療養する状態にある高齢者らに対し、療養上の世話、または必要な診療の補助を行うもの」。
そのうえで、「こうした役割に沿ったサービスが提供されるようにする」と説明。リハ職による訪問については、基本報酬の適正化や提供回数の見直しもあわせて検討していくとした。
担当者は席上、「リハビリは重要なサービスだが、きちんとした医師の指示に基づいて適時適切に提供されることが大事ではないか。訪問リハはやはり、医師の指示が明確である医療機関や老健施設から提供されるべきだと考えている」と述べた。
これに対し委員からは、「リハサービスが利用者から遠のいてしまう」「一定のニーズがあることも考慮すべき」といった慎重論も出た。「どうしてリハ職の訪問がいけないのか」との声もあがった。
厚労省は今後も引き続き調整を進めていく構えだ。年内には大枠の方針を決定する。
介護のニュースサイトJOINTより
厚生労働省お得意の後出しジャンケン。
最初は認めておいて、後からルールを変えて一気にハシゴをおろす。
看護師の割合が6割を切っている訪問看護ステーションは指定を受けられなくしよう、っていうルールを作ろうとしているのです。
今回の提言についても、現場にいる人から見れば、何言ってんの?っていうツッコミどころ満載な意見だったわけですが、それは後に置いておきましょう。
訪問看護ステーションでのリハビリテーション専門職の位置づけとは
まず、この訪問看護ステーションのリハビリテーションの位置づけについて確認することから始めましょう。
まず、訪問看護ステーションには常勤の看護師常勤換算2.5人が必要で、管理者は看護師である必要があります。
理学療法士・作業療法士または言語聴覚士を配置し、訪問によるリハビリテーションを行うことも認められています。
「指定訪問看護ステーションの実情に応じた適当数」という文言はありましたが、この表現がめちゃくちゃあいまいなのがそもそもの間違いなんでしょうけれど。
つまり、リハビリテーション・自立支援を中心にやります!って言っている事業所であれば、その事業所の実情に合わせた人員配置として理学療法士や作業療法士の配置数を当然多くしますよね。
地域包括ケアシステムでも、地域リハビリテーションが重視されています。地域にリハニーズもあります。
でも、それは「実情」として認められない?ということでしょうか。
「実情に応じた適当数」と書かれたその実情って、誰から見た実情なの?っていう話です。
訪問看護Ⅰ5
理学療法士・作業療法士・言語聴覚士といったリハビリテーション専門職が訪問看護ステーションから訪問する場合、サービスとしては「訪問看護」となります。
サービスコードでは「訪問看護Ⅰ5」となります。20分で1単位になります。40分を超えたサービス提供は「2超」というコードになり、単位数が安くなりますが、60分でサービス提供しているところも多いと思います。
訪問看護。なのに、リハビリ。というわかりにくさはあります。
そういう制度なんだからしょうがない。
これが訪問看護ステーションの行うリハビリテーションの概要です。
これが「増えすぎている」というのを問題視しているのです。
訪問看護事業所の理学療法士・作業療法士の人数は?
この審議会で提示された資料をまずはご覧ください。
訪問看護ステーションの中での理学療法士・作業療法士等の配置割合が高い事業所が増えているということです。
訪問看護ステーションにおける従事者のうち理学療養士等(常勤換算)の割合は、20% 未満の事業所が66.6 %を占める。また、20 %以上の事業所の割合は徐々に増加しており、60〜80 %未満は4.3 %、 80% 以上は0.4 %である。
理学療法士等が10 名以上の事業所数は平成21 年の 20 か所から平成29 年の 205 か所へと約10 倍に増加している
社会保障審議会 介護給付費分科会資料
つまり、リハスタッフの割合が高い事業所が増えているということです。これ、平成29年度までのデータしかありませんが、リハスタッフが常勤換算60%超えている事業所が5%近いということです。
最近の傾向を見るともっとリハ職が多い事業所が増えているかもしれませんね。
訪問看護ステーションの職員数も増えているんですが、もっと問題にしているのは請求件数の上昇ですね。
理学療法士等による訪問の請求が増え、訪問看護サービスの中での割合でも平成21年度が15.8%なのに対し、令和1年では53.9%です。
やばいくらい増えているんじゃないか!
訪問看護って、リハビリの方が多いんじゃないか?でも、この数字、トリックがあるんです。
数字のトリックに騙されるな。リハビリは20分1単位。
これは数字の見せ方の問題です。
平成24年の制度改正で、理学療法士・作業療法士等の訪問は20分1単位となったため、理学療法士・作業療法士等の訪問は基本40分か60分を1セットにしていると思います。
実際はこの数字の三分の一のサービス提供回数と考えるのが妥当です。
訪問看護サービスの提供回数のうち53.9%がリハビリとなっていますが、多く見積もっても30%くらいというのが実数ではないでしょうか。
請求金額のデータで見せればいいのに、わざわざ回数で資料を作るところが本当に姑息ですね。
数字のトリックに騙されないようにしましょう。
「訪問リハビリ」は何をしているのか?
でも、介護保険では「訪問リハビリ」という事業所種別があるはず。
本来、訪問でリハビリテーションを行う訪問リハビリテーション事業所は何をしているのか?
事業所数は増えているが・・・
少し前のデータですが、訪問リハビリテーションの事業所数です。訪問リハビリテーションのサービス提供を行った実績のある事業所の数の推移を見ていますが、事業所数は増えています。ふむふむ。
ところが、実際にどのくらいのサービスを提供しているのかっていうと、利用者数が1~10人しかいない事業所がなんと39%。
え?
訪問リハビリという事業所は、医療機関や介護老人保健施設に併設していることが多く、そのうちの多くの事業所は本体のサービスの傍ら訪問サービスを行っているため、訪問に専属で配置されている職員も少ないのです。
あくまで本体のサービスを補完するような位置づけで行われる場合が多いのが実情です。ぶっちゃけ、片手間でやっているような事業所もあります。
これでは訪問リハビリテーションというのも名ばかりです。
専門性の低いサービスを選ぶ利用者やケアマネはいませんし、地域のリハニーズに応えることができない訪問リハビリ事業所にもこそが最大の問題点だと思います。
訪問リハビリ事業所を多く解説しているのは介護老人保健施設ですが、医療と介護の中間施設という位置づけでありながらも、その機能を十分果たせていないと考えています。
老健協会のコメントに見える縄張り意識
審議会で介護老人保健施設協会の会長がこのようにコメントしています。
全国老人保健施設協会・東憲太郎会長
「訪問看護のリハビリが増えており、老健に併設している訪問リハ事業所の経営を圧迫しているという報告もある。そうしたことからも厚労省案に賛成だ」
介護のニュースサイトJOINTより
訪問看護のリハビリで老健の経営を圧迫しているとか、いやいや。
老健がニーズに応えないから、誰も老健の方を見なくなったんじゃないのか?
通所リハビリだって、そうです。
運動機能強化型のデイがどんどんできていますよね。それも老健がリハニーズに応えることができないからこうなっているわけで、それを他人のせいにするとか、マジどうかしてる。
暖簾も出さないラーメン屋がお客さんが入らないことを、近所で繁盛しているラーメン屋のせいにして目の敵にしているようなものです。
訪問看護のリハビリテーションは医師の指示に基づかないサービス?
審議会の発言でおかしい発言があったので、これも解説しておきます。
担当者は席上、「リハビリは重要なサービスだが、きちんとした医師の指示に基づいて適時適切に提供されることが大事ではないか。訪問リハはやはり、医師の指示が明確である医療機関や老健施設から提供されるべきだと考えている」と述べた。
介護のニュースサイトJOINTより
ん?おかしくないか。
担当者は以下のように述べた。
「リハビリは重要なサービスだが、適時適切に医師の指示に基づいて提供されることが大事。セラピストによる訪問が増えており、そのサービスでは医療的処置・ケアが少ないのが実態。医療保険の診療報酬でも同様の議論がなされている。訪問リハはやはり、医師の指示が明確である医療機関や老健施設から提供されるべきだと考えている」
介護のニュースサイトJOINTより
訪問看護のサービスは主治医の意見書がなければサービス提供できません。
理学療法士・作業療法士等の行うリハビリテーションだって同じです。主治医の指示に基づいて提供されます。
訪問リハビリの場合は、訪問リハビリテーション事業所の医師(病院・クリニック・介護老人保健施設の医師)が三か月に一回は診察をして指示書を書きます。
訪問看護ステーションの場合は、かかりつけ医が診察をして指示書を書きます。
どちらも医師の指示です。
リハドクターの書く指示書の方が本当に優れていて明確なのか?
そもそも訪問リハビリの指示書なんて訪問看護指示書とほとんどフォーマットも変わりませんよ。そんなに指示内容に違いがあるというのであればそれは仮説じゃなくてちゃんと証明してほしい。
一定数サンプル取ってみればわかるんじゃないでしょうかね。
訪問リハビリと訪問看護のリハビリ、サービス提供内容はほぼ変わらない?
今回の審議会の発言では、訪問看護のリハビリは軽度者ばかりにサービス提供しているなんて意見がありました。
確かに、サービス利用者の分布をみれば軽度者の割合が増えていますが、認定者数自体、軽度者が増えているんだから、そりゃ軽度者へのサービスが増えるのは当然ですよね。
訪問看護のリハビリが軽度者ばっかりなのかと言ったらそういうわけでもなく、訪問リハビリでも同じです。
訪問リハビリと訪問看護のリハで、介護度やリハビリ内容などを比較した調査があったけど、結局内容は変わりなかったっていう話もありました。
でも、そんなこともお構いなしに訪問看護だけをやり玉に挙げている感じですね。
異論・反論の末、出した結論は
今回の指定基準の変更について、当然異論が噴出しました。
その結果。
厚生労働省は9日、リハビリテーション専門職によるサービスの抑制を図ろうと提案していた訪問看護の運営基準の厳格化について、来年4月の介護報酬改定での実施を見送る方針を決めた。
訪問看護の本来の役割・機能(*)を踏まえて事業所を運営してもらう、という基本スタンスは変えていない。リハ職によるサービスは単位数の引き下げ、提供回数の適正化などを行うとした。
社会保障審議会・介護給付費分科会で説明。委員から了承を得た。
介護のニュースサイトJOINTより
運営基準の厳格化は見送ったものの、リハビリの介護報酬を引き下げることになりました。
訪問看護ステーションによるリハビリは今後も締め付けられていく方向にありそうです。
一気に切り捨てるのは反論が多かったので、真綿で首を締める用に報酬を切り下げることにしたということです。
ついでに、訪問看護体制強化加算の要件として、看護職員の割合が6割以上であることを加える方向のようですね。
今後の焦点は、リハビリの訪問の単位数や体制強化加算の単位数がどうなるかでしょうね。
追記:令和3年1月20日
介護報酬単価が公示、訪問看護のリハビリはどうなる?
訪問看護でのリハビリはこのような単位数になりました。
理学療法士等の派遣 | 改定前 | 改定後 |
訪問看護 | 297単位 | 293単位 |
介護予防訪問看護 | 287単位 | 283単位 |
(参考)訪問リハ | 292単位 | 307単位 |
訪問リハビリがしれっと15単位も上がっているのに対して、訪問看護のリハビリは要介護・要支援いずれも4単位下がっています。
これだけではありません。
介護予防訪問看護のリハビリはこんなルールも追記されました。
※1日3回以上の場合は「90%で算定」 ⇒ 「50%で算定」に厳格化
1単位20分なので、60分の時間設定をするために20×3で組んでいる事業所も多いと思うのですが、その場合はこれまでも基本単位数が10%減るというルールがありました。いわゆる「訪問看護Ⅰ5・2超」というコードです。
それが、なんと50%減額されることになったようです。
となると、4月以降は、283(単位)×3(60分)×0.5=424単位。
あら不思議、40分のサービスよりも60分にした方がお安くなるんですね。
訪問リハビリの場合は?
ちなみに、訪問リハビリの場合は、
307(単位)×3(60分)=921単位
なんと、理学療法士等のリハビリ職が60分訪問するという同じサービスなのに倍以上も金額に差が出るのです。
あきれてものも言えませんわ。
訪問リハビリの質が高い根拠はどこにあるかというと、医師の指示が明確だと。早く見せてみろ、その指示が明確な指示書とやらを。
訪問看護の質に課題があるのであればそれを排除するのではなく、改善しようとする方向で考えないものかね。
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