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介護保険制度見直しのポイントは
今後の介護保険制度の方向性を占う介護保障審議会介護保険部会。
介護保険の制度改定について、厚生労働省の見直し案が提示されました。
急速に進む高齢化に対応するため、厚生労働省は介護保険サービスの自己負担の引き上げを検討し16日、その見直し案を示しました。2割負担の対象拡大やケアプランの有料化は「利用者への影響が大きい」などという指摘を受けて見送る一方で、自己負担の上限額は年収に応じて引き上げる方針です。
NHK NEWS WEB
それでは具体的にどのように引き上げになるのかを見てみましょう。
利用者自己負担の引き上げとなる項目
- 高額介護サービスの自己負担の上限額引き上げ
- 施設利用時の食費・居住費の自己負担費用の引き上げ
それぞれを見ていきましょう。
高額介護サービス費の自己負担上限の引き上げ
まずひとつは高額介護サービスの上限額の引き上げについてです。
これは以前にもこのブログでこのように紹介しています。
高額介護サービス費の適用を受ければ、先に説明したような自己負担が9万円になるようなケースでも、高額介護サービス費の負担限度の4万4400円の自己負担で済むのです。つまり、半分以上の自己負担が免除される形になります。
この制度があることで、2割負担・3割負担の利用者であっても、介護保険サービスを制限することなく利用できたという側面があり、2割・3割負担を導入する際にも「高額介護サービス費で払い戻されるから」という安心感があったことで反対意見を封じ込めてきたのではないでしょうか。
今回の高額介護サービス費の上限額引き上げで、上限44,400円だった自己負担額は、最大140,100円にまで膨れ上がる見込みになっています。
高額介護サービス費、上限額引き上げで高所得者の自己負担は2~3倍に!
介護保険の自己負担が2割・3割になっても、高額介護サービスが適用されるから44,400円以上の自己負担は発生しなかったんですが、これが高額介護サービスの上限引き上げで自己負担が月14万円にも膨れ上がるということです。
高所得であっても、介護保険の範囲内だけでサービスを利用していて、一か月10万円も自己負担が増えたらさすがにビビりますよ。
そもそも高額介護サービスとは
これが現行の高額介護サービスの制度です。
今回注目してほしいのは負担上限44,400円となっている、この表の一番上。現役並み所得者に相当する方がいる世帯が、これまでの負担上限が44,400円だったところ、最大で140,100円になるということです。
高額介護サービスの詳しい仕組みなどはここに掲載していますのでご参照ください。
高額介護サービスというストッパーを失う
介護保険のサービス利用に伴う自己負担に二割負担・三割負担を導入するのに際しても、高額介護サービスで実質44,400円以上の自己負担は発生しないから、という説明もあったんですけどね。
2割負担や3割負担を導入しても、サービスの利用控えが比較的起きなかったというのはこの制度があったからという面は非常に大きいと思います。
これが2割・3割負担になった場合の影響を調査した資料になります。
本稿では、当社が実施した調査結果をもとに、介護保険における利用者負担割合の引き上げが、介護サービスの利用に与えた影響を検討した。その結果、制度変更の影響は非常に小さかったと考えられるが、今後議論が進むと考えられる原則2割負担化については、対象が高所得者に限定されず全ての利用者に影響が及ぶ以上、一旦立ち止まって慎重に検討することが求められる。
介護保険における2割負担・3割負担の導入の影響と今後検討すべき論点 |三菱UFJリサーチ&コンサルティング
その高額介護サービスというストッパーがいなくなるというのが今回の見直し案です。
現役並み所得という区分を3つに分け、年収383万円~770万円はこれまで通り自己負担の上限は44,400円。770万円~1160万円は93,000円。そして、年収1,160万円をこえるばあいは140,100万円となります。
年収1,160万円というのもなかなか想像しにくいところですが、月に換算すると月収96万円となります。
医療保険の負担限度額に合わせるというのが今回の改正案で、その図が以下のものになります。
一か月最大14万100円って、要介護5認定で利用できる区分支給限度額マックスよりでかくないですか?高額介護サービス費の該当になる人、高所得の区分の人はいなくなるんじゃないですか?
ということで、低所得者には直接関係のない見直し案ですが、高所得者にとっては自己負担がこれまでの2倍、3倍になる可能性がある大きな変更です。
根本的なサービス利用計画の内容の見直しも必要になるケースもかなり多いのではないでしょうか。
自己負担限度額の自己負担費用の引き上げ
先ほどの高額介護サービスの上限額引き上げは高所得者を対象にした自己負担の改正案でしたが、こちらは低所得者を対象とした自己負担の引き上げについてです。
負担限度額認定とは
介護保険負担限度額認定は、特別養護老人ホーム・介護老人保健施設またはショートステイを利用するにあたって必要になる食費や居住費(お部屋代)というホテルコストに一定の限度額を設けて費用負担の軽減を図るものです。
負担限度額認定を受けることができる人の条件としては、所得が少なく、住民税が非課税の対象になっていることと、貯蓄が一定基準以下であることです。
負担段階には1段階から4段階までありますが、負担限度額が設定される1~3段階はいずれも住民税が非課税になっていることが条件になっています。
今回の改正で施設利用時の自己負担はどう増える?
今回の改正案では長期入所者の方では非課税の人のうち、収入が120万円以上155万円未満の人の自己負担が引き上げられます。つまり第三段階が2つに分かれる形になります。
その負担額の具体的数字としては、現在の負担額に月2万2000円を上乗せ、とされています。
これは食費と居住費どちらがどのくらい上乗せされるのかというと、下の図の通りで、日額にしたら引き上げ額は733円です。
ショートステイの場合は一日で計算すると、最大で650円の引き上げとなります。
また、ショートステイの場合でも2段階でも食費が210円上がるので、これまで390円だったのが600円に上昇します。
現段階では、第三段階で多床室であれば、居住費が370円、食費が650円で合計1,020円。これに要介護度によって定められる介護保険の自己負担分を合わせたものが大まかに特養で生活するための最低限の費用になっています。
食費はほぼ倍になっており、自己負担している金額でこれだけ大きくなると、かなり負担は大きいですよね。
普通一日の食費に650円分上乗せしたら相当うまいもん食えますけど。負担だけ増やされるのは当然納得ができないでしょう。
施設の食費・居住費の負担軽減
施設の食費・居住費は介護保険スタート当初は自己負担なしでした。在宅との負担の公平性を狙って導入されています。
低所得者への負担増を回避するために設定されたのが負担限度額認定という制度でした。
介護保険サービスを使っていたとしても、在宅の方の場合はショートステイなどを利用しないとこの制度について知る機会は少ないと思います。
ケアマネがやたらと年収とか非課税かどうかって聞いてくるけど、怪しい。なんて思っている方もいると思いますが、こういった制度を利用できる可能性があるからなんですね。
この負担限度額認定については、所得の低い利用者にとっては経済的な負担をかなり軽減できる制度になっています。
しかし、すでに施設に入所している人で、この自己負担引き上げ対象になっている場合、食費・居住費の値上がり分を支払いきれないという状況が発生してしまう可能性もあり得るということですね。
見送りになる項目
逆に見送りになることが決定的になった項目もあります。
- 居宅介護支援の自己負担導入
- 自己負担割合の2割・3割負担の対象者拡大
- 要介護1・2の総合事業への移行
居宅介護支援の自己負担導入を見送り
これまでもなんども紹介してきましたケアプランの自己負担問題。
これは見送りになりそうです。
いや、これも何度も言いましたけど、ケアプランの自己負担じゃなくて給付管理の自己負担なんですけどね。
また改正の話が出るたびに俎上に上がることは間違いないのですが、このもっと本質的な部分の議論から始めないと、意味がないんですよ。
施設ケアマネと居宅ケアマネの間で不公平だとか、自己負担があったほうがケアマネの質が上がるとか、屁理屈にもなっていない。ただのいちゃもんです。嫌がらせ以外の何物でもありません。
これまた話始めたらきりがないので、もうこれは切り上げて次の項目に。
自己負担割合の2割・3割負担の対象者拡大
2割負担・3割負担の対象者を増やすというものです。
現行の制度でいえば、1割負担:2割負担:3割負担の全体の人数の割合は、
90:7:3 といわれています。
90%の利用者は1割負担。この図の通りですね。
この割合を変えるということですが、自己負担割合を原則2割にするという案もありました。
選挙が終わったとたんに原則2割負担の話が浮上して、まあこの政権のやることはいつもこんな感じだし、それでも国民は与党を支持するのだからどうしようもないし、政権与党は国民を馬鹿にしているんだろうと思うと本当に情けない。
この自己負担導入も見送られましたが、高額介護サービスというストッパーがあれば、そんなに自己負担の金額としては影響が出ないケースも多かったとは思います。ただ、今回の改正は高額介護サービスという外堀から埋めることにしたという感じでしょうね。
要介護1・2の総合事業への移行
これも話題に上りました。
そもそも要介護1・2は軽度者じゃねえぞ、と。
地域の老人会がやっているサロンで要介護2を見てくださいって連れて行ってくださいよ。やってみればわかりますよ。
認知症で帰宅願望が強い利用者に抵抗され、片麻痺の利用者の歩行介助ができずに転倒し、誤嚥リスクの高い利用者の見極めができずに肺炎や窒息を起こし、全国でそんな事態が続発するようになって初めて気が付くんでしょうかね。
結局、ここでいう総合事業は、地域の自主性だの社会資源だの多様なサービス主体だの糞くらえで、主体は介護サービス事業者としか考えていないでしょう。
総合事業なんて、制度はあって本来狙っていた多様な主体なんて中身はどこにもない。
介護サービス事業者によるサービスを安く買いたたくために、要介護1と要介護2を介護保険から切り離して、自治体で設定する介護報酬よりも安い単価のサービスでまかないたいっていうだけでしょ。
サービスの内容も変わらないのに値段だけ安くされる。こんないかさまな制度ありますか?
まあ総合事業なんて最初から眉唾物でしたけどね。
今回の見直しでは、要介護1・2の総合事業への移行は見送られました。
ただ、今後もこういった軽度者の切り捨て議論が起こることは安易に予想できそうです。
なぜ社会保障に財源が回らないのか
そもそも、消費税を増税したのはなぜですか。社会保障費に回すためじゃないですか。
増税分の全額を子育ても含めた社会保障費に充てるという約束だったはずです。
それが気が付けば借金返済であったり、キャッシュレス現在の財源などに充てられていて、肝心の社会保障費にはまるで振り分けられず、挙句の果てには財源がないから利用者負担を引き上げる見直しをしているのです。
本末転倒も甚だしい。
約束ができないのであれば、政治に何を期待すればいいのでしょう。
桜を見る買いに暴力団関係者がいようが宇宙人がいようが、正直どうでもよくって、でも、隠ぺいしてそれで終わりを繰り返すやり方で通す政府も、それで気が付けば忘れている国民も、どっちも感覚が麻痺しきっているとしか言いようがないですよ。
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