この記事の目次
居宅介護支援事業所管理者主任ケアマネ限定に急展開
以前から問題視されていた居宅介護支援事業所管理者資格の厳格化ルールについて、大きな展開がありましたので紹介します。
事業所の管理者を主任ケアマネジャーに限定する居宅介護支援の運営基準の厳格化をめぐり、厚生労働省は15日、来年度までとしていた既定の経過措置(2018年度から2020年度)を延長する方針を固めた。
社会保障審議会・介護給付費分科会で提案し、委員から大筋で了承を得た。具体策は年内にも正式に決定する。
経過措置の延長は、2021年3月31日の時点で主任ケアマネ以外が管理者を担っている事業所のみが対象。その管理者が管理者を担い続けていく場合に限り、2026年度まで6年間にわたって厳格化が猶予される。
JOINT 介護より
え?
いまさら何を言っているんだ!?
まさかの6年間の経過措置延長。
6年後にはもう居宅介護支援事業所のケアマネなんてなくなっているかもしれないですし、介護保険という制度がなくなっているかもしれないですけど。
もうそこまで延長するんだったら事実上の撤廃でしょうね。
いったい今までは何だったんだ。
そもそもの発端は、厚生労働省でも財務省でもなく・・・
平成30年の介護保険制度改定を振り返る
この居宅介護支援事業所の管理者資格の主任ケアマネ限定についてもう一度振り返ってみます。
厚生労働省は22日、居宅介護支援事業所の管理者の要件を主任ケアマネジャーに限定する方針を固めた。
研修を受けた質の高い人材に任せるべき、という判断から厳格化に踏み切る。来年度の介護報酬改定を機に運営基準を改めるが、これを完全に適用するのは2021年度からの予定。2020年度末までの3年間は、現行のまま一般のケアマネも認めていく経過期間とする考えだ。この日の社会保障審議会・介護給付費分科会で提案し、委員から大筋で了承を得た。
主任ケアマネになるには5年以上の経験と70時間の研修が必要。その後も資格を維持するためには、5年ごとに46時間の更新研修を受けなければいけない。
研修のカリキュラムには、後輩のケアマネを指導する手法やその際に重視すべき視点、人事管理のノウハウなどが含まれている。厚労省は今回、管理者がこうしたスキルを備えておくことが大事ではないかと説明。人材を育成していく現場の力を底上げするために、要件の厳格化を断行する意向を示した。
厚労省の調査結果によると、2006年度から2015年度までの累計で5万9193人が主任ケアマネの研修を修了した。昨年度のデータでは、2万8463人が居宅介護支援事業所に勤めている。主任ケアマネが管理者を担っている事業所は44.9%。そうでないところと比較して、後輩が利用者の住まいを訪問する際に同行してサポートしていたり、ケアマネ同士で業務について話し合う時間を設けていたりする割合が高いと報告されている。
JOINT介護より 平成29年11月
この時に示された根拠が、主任ケアマネのいる事業所の方が事業所内での検討会をを定期的に開催している、相談の時間を設けている、ということで、管理者は主任ケアマネの方がケアマネジメントの質の向上のための取り組みを行っているというものでした。
当然、主任ケアマネのいる事業所は特定事業所加算を取っている事業所の割合が多くなりますし、その加算を算定する要件に事例検討や事業所内でのケアマネジメントに関する相談などを行っているということが含まれています。
主任ケアマネのいる事業所の方が割合が多くなることはわかりきっている質問ですよね。
出来レースのようなアンケートで、居宅介護支援事業所の管理者資格主任ケアマネ限定の根拠となったわけです。
この管理者資格の厳格化、日本介護支援専門員協会が推進している
これに対する職能団体である日本介護支援専門員協会の会長へのインタビュー記事でのコメントを掲載します。
―主任ケアマネを管理者にすれば応えられる?
まずは5年間の実務経験が不可欠になります。管理者としての責務を十分に果たすには、やはり一定の経験値を積んでいることが必要になると考えます。主任ケアマネの研修を修了していることも重要です。個別事例の検討やスーパービジョンなどは非常に大事ですし、後輩の育成や業務管理、リスクマネジメントに関するカリキュラムも含まれています。これらを学んでいる人とそうでない人のどちらが相応しいか? それはやはり前者ですよね。厚労省の調査でも裏付けられました。主任ケアマネが管理者を担っている事業所の方が、他のケアマネが相談できる時間を設けていたりOJTを行っていたりする割合が高いと報告されています。
ケアマネタイムスより
「厚労省の調査でも裏付けられました。」って、何を言っているんですかね?裏付けられたのは日本介護支援専門員協会の無能さだったということでしょうか。
②管理者要件について
居宅介護支援事業所内において、管理者が当該事業所の介護支援専門員に継続的に適切な教育指導が実施されるために、その体制を整備していく必要がある。特に管理者は、適切な事業所運営とケアマネジメントの質を担保する役割を担うことが必須で ある。管理者を主任介護支援専門員とすべきと考える。また、その運用にあたっては、 経過的・段階的な措置をお願いしたい。
平成 30 年度介護報酬改定にあたっての要望
こんな要望書を上げている日本介護支援専門員協会。経過措置の期間中とはいえ制度改定から1年半。本当にケアマネジメントの質は担保されたのか、聞いてみたいところです。
主任ケアマネ研修って何するの?
主任ケアマネが管理者としてよりふさわしい、というのもは間違いです。
5年以上のケアマネジャーとしての実務経験が必要なので、実務経験という意味では担保されるかもしれません。ただ、その5年のケアマネジャーとしての働き方は千差万別です。
そして、主任ケアマネ研修を受ければ管理者としてのマネジメントスキルが身につくのか、といったら、答えはノーです。
自分も主任ケアマネを持っていますので、主任ケアマネ研修も受講しています。
課題提出などはありますが、受講さえすればとれる資格です。
そして、やっている内容の大半は事例検討会の進め方です。そのうちほとんどの時間を事例を持ち寄って事例検討を進めるだけに費やします。
事業所内で事例検討会を行うということであれば、主任ケアマネ研修を受けることは意味のあることかもしれません。
ただ、事例検討会を進行するスキルと、管理者として組織をマネジメントするスキルはまったく別物です。
だったら年に一回の介護事業所集団指導に出ることの方がはるかに大事だと思います。事業所の運営基準や新規に追加される加算などの説明や災害対策、それに労働関係の法規についての説明など、短い時間ですが管理者として必要な情報を提供している場です。しかし、集団指導も参加は必須ではなく、地域によるかもしれませんが、残念ながら事業所数の半数くらいしか出席していないと思われる地域もあります。
管理者として必要な能力が何かを完全にはき違えているのではないでしょうか。
事例検討を中心に進める主任ケアマネが必要だとしても、それが管理者である必要性は全くありませんし、ひとりケアマネの事業所にそれが必要になる理由もわかりません。
主任ケアマネ研修受講者を増やしたい日本介護支援専門員協会とその後の混乱
日本介護支援専門員協会としては、主任ケアマネ研修の受講者を増やしたいというねらいがあったのでしょう。
管理者がケアマネに限定されるなんてことになれば、特定事業所などの大規模事業所や地域包括支援センターのように、配置必須になっている事業所だけでなく、すべての居宅介護支援事業所が躍起になって研修に行かせるようになるだろうと。
そうこうしているうちに介護保険法改正され、管理者資格は主任ケアマネに限定されました。
当然誰もが予想していたことでしたが、その後は皆さんもご存じのとおりです。
・管理者要件を満たさない居宅介護支援事業所4割近くは閉鎖の危機
・主任ケアマネ研修を申し込んでも定員オーバーで受講できない
・中小規模の居宅介護支援事業所は未経験ケアマネを採用できず、ケアマネ資格を取得してもケアマネとして採用されないケアマネ有資格者が多数
・主任ケアマネとそれ以外のケアマネとの間に生まれる待遇格差
・ケアマネ試験の受験者数も激減
・介護職の待遇改善に伴い、ケアマネを目指す人もいなくなる
そこで、日本介護支援専門員協会は経過措置の延長を提案していました。
そして、今回。
居宅介護支援事業所管理者資格の厳格化の6年間経過措置延長が大筋で決まりました。
失われた時間の損失は大きすぎる
経過措置の延長がおそらくこのまま決定になると思われます。
しかし、この間に失われたものの損失は大きすぎます。
介護支援専門員の資格を取って、意気揚々と居宅ケアマネとして働こうと思っていたのに、新人ケアマネを採用する事業所はどんどん少なくなっていくのです。
現職で働くケアマネの高齢化が進み、主任ケアマネの資格を持っているだけで管理者としての資質も関係なく、本人も望んでいないのに管理者をしているケアマネも多数います。
これだけの混乱を招いた責任をいったい誰がとるんでしょうか。
追記:経過措置延長を正式決定
2019年12月12日の介護給付費分科会で正式に経過措置の延長が決定しました。
来年度末(2021年3月31日)の時点で主任ケアマネ以外が管理者をしている事業所だけを延長の対象とする。その管理者が以後も管理者を務め続けていく場合に限り、2026年度末(2027年3月31日)まで6年間にわたって厳格化を猶予するとした。
2021年度(同年4月1日)以降で新たに事業所の管理者に就く人は必ず主任ケアマネの資格を持っている必要がある。経過措置の延長は適用されない。
JOINT介護より
新しく管理者になる人は主任ケアマネが必要というのは崩さないようですが、市町村によっては例外も認めることも決定しています。
厚労省は今回、どうしてもやむを得ない理由で主任ケアマネの管理者を配置できなくなった事業所について、その理由と改善に向けた計画書を保険者へ届け出ることを条件として、厳格化を1年間だけ猶予することも決めた。
あわせて保険者に一定の裁量を与える。ここが変更点だ。周囲に代替する事業所がないなど、利用者保護の観点から特に必要性が高いと認められるケースであれば、保険者が独自の判断で猶予期間を伸ばせるとした。延長の上限は特に設けていない。有識者らの要望を受けてこの決まりを加えた。
JOINT介護より
保険者に裁量を与えることで、実際のところこの主任ケアマネ縛りのルールも有名無実化していくんじゃないでしょうか。
ケアマネのなりてなんてどんどん減っていて事業所数も増えないのに、このままではケアマネジメントを受けられないケアマネ難民が続出することは目に見えているんです。
どの保険者だって、そんな事態を起こすわけにはいかないですから、この主任ケアマネ縛りの馬鹿げたルールなんか撤廃したいと思うでしょう。
まあ、誰も幸せにならないルールだっていうことにいまさら気が付いたということなんでしょうか・・・。みんな、そんなの最初から分かっていたよ。遅えよ。
追記:社会保障審議会でも了承。
社会保障審議会の分科会でも正式に了承されました。
ちょっとわかりにくいかもしれないのですが、今後の経過措置に関してのスケジュールはこちらです。
経過措置が延長されたものの、新たに管理者になる場合・管理者が交代する場合には管理者が主任ケアマネジャーであることが必要になります。
ただし、配慮措置があるため、保険者の判断により猶予期間を延長する措置をとることができるとしています。
ということにしていますが、おそらくこの6年の時間を経てこの管理者要件もうやむやになっていくんでしょうね。
ただでさえ、ケアマネの人材難が進んでいる中、主任ケアマネ研修・さらに5年ごとに主任ケアマネの更新研修も受講させなければいけないわけですよ。
しかも併設事業所に紹介すれば特定事業所集中減算、余計な業務も山積み、ペーパーレス化も遅々として進まず。
居宅介護支援事業所併設のメリットはますます薄くなっていますよね。経過措置が終わるころにはどうなっているんでしょうね。
(追記:令和2年1月29日)
最近のコメント