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運転中止で要介護リスク2倍の報道
さっそくですが、先日、こんな報道がありましたので簡単にご紹介します。
運転中止で要介護リスク倍、健康に悪影響か 筑波大
車の運転をやめて自由に移動する手段を失った高齢者は、運転を続けている人と比べ、要介護状態になるリスクが2.2倍になるとの研究結果を、筑波大の市川政雄教授(社会医学)らのチームが6日までに日本疫学会誌に発表した。運転をやめたが公共交通機関や自転車を使って外出している人はリスクが1.7倍だった。
日本経済新聞より
高齢者の事故が問題になり、免許返納を勧めるなど運転をやめるよう促す機運が高まっている。だが市川教授は「運転をやめると閉じこもりがちになり、健康に悪いのではないか。事故の危険だけを考えるのではなく、バス路線を維持・充実させるなど、活動的な生活を送る支援も必要だ」と話す。
チームは2006~07年、愛知県内の健康な65歳以上の人に外出の手段を尋ね、車と答えた約2800人を追跡開始。10年までに車を使わなくなったグループと使い続けたグループで、その後6年間にどれだけの人が要介護認定を受けたかを比べた。
海外の研究でも、高齢者が運転をやめると、うつ状態になるリスクが約2倍になるなど心身の健康を損ない、社会参加も減るといった悪影響があることが示されているという。
運転をする人としない人で分けて、要介護のリスクを調査した結果だそうです。運転をするグループと、運転をしていたけれどやめたグループに分けて追跡調査をしたところ、運転をやめたグループの方が要介護認定を受ける割合が高かったという調査です。
運転をやめたら要介護度が上がる。運転は介護予防に必要なのか!
という印象を受けますね・・・。
運転やめたら要介護リスクが上がった、は本当か?
ちょっと気になる調査結果だったので、つっこんでみようかなと。
調査の前提
調査の前提をおさらいしましょう。
調査対象は主な移動手段として車を使っている愛知県在住で65歳以上の2800人。愛知県という時点で、なんかトヨタがからんでいそうな匂いがしますが、気のせいかもしれません。65歳以上というのは非常に対象者の年齢層としては広いですよね。
その対象者の中で、2010年までの間に運転を続けていた人とやめた人でグループを分けて、その後、要介護認定を受けたかどうかの調査です。
高齢者が運転をやめるとき
運転をするグループと運転をしないグループでの追跡調査になるのですが、ここで大切なのは、運転をしないグループという表現が正しいのかどうかです。
運転していた人が運転をしなくなったのには当然理由があるはずです。
運動機能が衰えを自覚したことで運転をやめた人もいるでしょうし、認知症など認知・判断に問題が生じている人もいるでしょうし、中には実際に事故を起こしたことで運転をやめた方もいるのではないでしょうか。
運転することをやめた人には運転をやめざるを得ない理由がある。その理由の最も大きなものが加齢によるものではないでしょうか。
運転をするグループしないグループではなく、調査開始から3~4年度にも運転ができたグループと運転ができなくなったグループに分けた調査という表現が正しいのではないでしょうか。
言い換えれば、すでに要介護リスクの高いグループとそうでないグループに分けて、要介護認定を受けたかどうかの調査の結果がリスク2.2倍。これがこの調査の実態でしょう。
高齢ドライバーによる事故のリスク
これまでも報道されてきましたが、高齢ドライバーによる事故が社会問題として注目されていました。このブログでも何度かご紹介しています。
高齢者による重大な交通事故の数が増えているのかというと、そうではなく、高齢者の運転による死亡事故件数は大きく変わっていません。
また,75歳以上の運転者による死亡事故について,件数自体は10年間ほぼ横ばいで推移しているものの,死亡事故件数全体が減少する中,全体に対する構成比は上昇傾向にあり,平成28年は全体の13.5%を占めている
平成29年交通安全白書(概要) 特集「高齢者に係る交通事故防止」 I 高齢者を取りまく現状
ただ、全体の死亡事故の件数は大きく減っているのにもかかわらず、高齢者の運転による死亡事故の件数が減っていないため、割合としては高齢者の運転による事故が増えているのです。
昔から高齢者の運転による重大事故はあったのですが、それが大々的に報道されなかったというのが正しいのではないでしょうか。
本当に運転は要介護リスクを軽減するのか
ただ、車を運転することが要介護リスクと無関係だとは思いません。
運転すること自体が要介護リスクの軽減につながる可能性もあります。
車を運転することによる介護予防効果
たとえば、ハンドルを握る緊張感や刺激などが介護予防として効果があると考えられます。ハンドルを操作しながらブレーキやアクセルを調整するなど、認知症予防に効果の高いマルチタスク(同時に複数の動作を行う)を行っていますし、車を走らせながら季節の移り変わりを実感することができますので、認知症予防の効果は間違いなくあると思います。
また、助手席に人を乗せていれば、風景やその場所の思い出など家の中ではしないような会話をすることもあるでしょう。
あと、とても重要だと思うのが高齢者が自尊心を失わずにいられるかどうかということです。多くの男性高齢者と接している中で感じるのは、車を運転してどこへでも行けるということが、非常にポジティブなセルフイメージを与えているという点です。運転できるということが、仕事・肩書などを失った後でも重要な価値の基準になっているのです。
高齢者が外出機会を持つことの重要性
それ以上に重要なことは、定期的な外出機会を持つことではないでしょうか。
今回の調査では、車の運転をやめたら公共交通機関や自転車を使って外出していても要介護リスクは1.7倍という調査結果を公表していました。
運転をやめたが公共交通機関や自転車を使って外出している人はリスクが1.7倍だった。
日本経済新聞より
この調査結果を見たら、外出していても運転しなければ要介護リスクは高まるのだと思いますよね。先ほども説明した通り、今回の調査の結果は要介護リスクがはじめから高いグループとそうでないグループの調査でもあるので、スルーしていい部分もあると思います。
車を運転できる方が外出できる範囲も広がりますし、アクティビティの幅は大きく広がります。
ただ、それ以上に重要なのは、定期的に出かける場所があるかどうかや、いっしょにその時間を過ごす仲間がいるかどうかだと思います。
歩いて出かけることで運動機能の維持に、
気の合う仲間とおしゃべりをすることで認知症予防や口腔機能の向上に、
おいしいランチをみんなで食べることで栄養状態の改善に、
出かけること自体でとじこもり予防やうつ予防に。
地域に高齢者の居場所づくりをするためのサロンなどが多く開かれるようになりました。男性高齢者でも入りやすいような仕組みづくりをしている地域も増えていると思います。地域ごとに様々な課題はありますが、気軽に顔なじみが集まる場所が増えていくことが、総合的に見て運転することよりも介護予防としての効果は大きいのではないかと、個人的には思います。
外出を支援するためのコミュニティバスや乗り合いタクシー、スマートモビリティなどが広がりを見せることで、高齢者にとっての外出の幅が広がることを期待したいですね。
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